《MUMEI》

「………」



…多分、桐生が彩原に私が今まで友達いなかったことを言ったのは、このためだったんだろう。


勝手に言ってたことに対しては少し腹を立てたが、そのおかげで今、私達は仲直りできそうな状況がつくられた。



(桐生には感謝しなきゃな…)



私は、そっと彩原の顔を上げて、しっかり瞳を見据えて言った。


「もういいよ、彩原。だから顔上げろって」

「橘……」

「僕も友達なんて初めてできたもんだから、どう接するべきか、どこまで踏み込んでいいのかわからなくてさ…」


ため息まじりに薄笑いを浮かべ、彩原を立たせた。


「今までずーっと、家でも学校でも敵だらけって思って知らないうちに予防線張ってたんだな」


顔を上げて青空を見る。
遠くを見据えるような表情をしていたことに私自身は気付かなかったが、どこか悲しいような寂しいような表情をしていたのには自分でもわかっていた。



「…でも、それももう止めるからさ」


今度は満面の笑みを見せた。彩原の顔がほんのり赤くなっていたが、私は続けた。


「これからは、彩原や桐生のこと知っていきたいって思ってる。もちろん、自分のことも知ってほしい。」

「……」



彩原はずっと私の言葉を聞き逃さないように黙っている。私はまだ続ける。



「…それが、友達ってもんなんだろ?」



その言葉を発すると同時に彩原の方を向く。
今度は彩原の言葉を待っていた。

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