《MUMEI》

僅かに沈黙が訪れたあと、ようやく彩原が私に言葉を向けた。


「…うん、そうだね」


さっきの私と同じ満面の笑みを私に向けた。不覚にも、彩原の可愛らしい笑顔に一瞬ドキッとしてしまった。

「橘は冷めた奴なんかじゃない。ただ、わからなくて戸惑っていただけなんだよな。…少しずつ理解し合えば良いんじゃない?俺ららしくさ」


「彩原……。そうだよな、桐生も言ってたもんな、僕のペースで良いって。おかげで吹っ切れたよ」



(良かった、彩原と仲直りできたみたいだ)


雰囲気で察した。
彩原も私も笑っている…
これで仲直りできてないわけがない。


「やばっ、仕事に戻らないと!」


店の裏口にある小さな時計を見て私は慌てた。

私が休憩できる時間は、約15分…。私が店を出てから、もう20分以上経過していた。

「悪い、もう戻るわ!」

「あ…ああ、仕事頑張れよ!」


裏口とは反対にある表の正面のドアから再度入店しようとする彩原を、私は呼び止めた。


「なあ、彩原!」

「…ん?何?」


こちらを振り向く彩原。


「また、帰り一緒に帰らないか?…その……話したいこともあるし…色々」


「もちろんいいよ!!」



たじたじしながら言ってしまう私に、彩原は笑顔で答えてくれた。
そのことに安心して、私も裏口から早歩きで店に戻った。

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