《MUMEI》
揺れる心
「でも、お前が俺の内側に入ろうとしてくれて嬉しかったぞ」

「……え…?」



桐生は、照れ臭そうに微笑んでいた。

私はちょっとよく解らなかったため、思わず聞いてしまった。


「なんでだよ…?お前もさっき、哀しそうな顔してたじゃねぇか!」

「うっ…まあ、確かに哀しい気持ちにもなったけど…それよりも、やっと俺のこと知ろうとしてくれたことが嬉しかった」

「はあ!?夏休みのときに電話番号とか知り合ったじゃんか!」

「いや、だから、そういうことじゃなくてだな…」

「じゃあどういうことだよっ!?」



私の叫び声らしい声が二階まで響き渡り、彩原が様子を見にきた。


「今、橘の声が聞こえてきたんだけど…」


私はそれに気付かずに話を続けた。


「知ってるよね?僕友達とかいなかったから、そういうことには疎いって。…ちゃんと言ってくれないとわかんないよ!」


私の真剣な眼差しに、目を反らさずに真っ直ぐ見つめる桐生。

なにがなんだか解らず、その場に立ち尽くす彩原。



やがて桐生は私に向かって言葉を発した。


「お前、友達になってから今までずっと、家の事情でもなんでも、深くは聞いて来なかったからさ…それがなんか違和感あったんだけど、今回のことでやっと本当の友達になれた気がして…」



(本当の…友達?)


お互い深く聞いて、傷付け合うのが友達なのか?

なんでわざわざそんなことをするんだ?

自分が傷付くくらいならいっそのこと深く聞かなきゃいいのに…


(いや、違うな…)



確かに傷付け合うかもしれないけど、それでもお互いのことを知りたいって思うのが友達なんだな…


(夏休みにバイト先の店長に言われたことだ)



こんな大事なこと忘れてたなんて……

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