《MUMEI》

「晴、起きなさい」

「ん……」



突然母さんに起こされ、まだ眠い私はベッドから起き上がらずに返事だけした。


「起きた?」

「……うん」


ベッドのすぐ横にある窓に顔を向けると、オレンジ色の光が射していた。もう夕方なのだろう、カラスの鳴き声がよく聞こえてうるさい。


(爆睡しちゃったなぁ)



オレンジ色の光が射している窓を見て、私は目が冴えてきた。


「母さん、用があるなら使用人に伝えてくれてもよかったのに」


ベッドから体を起こしながらそう言った。

(変な優しさは、かえって毒なんだよ…)


誰もいないなら、私の中に入って来ないでほしい。
…誰も入って来なくても、誰も私に干渉しなくてもいいから、自由にさせてほしい……

ただの我が儘だ何だと言われるかもしれないけど、これが私の、家族に対してのまぎれもない本心。


(でも、母さん自ら来るなんて珍しいな…そんなに大事な用なのか?)


まだちゃんと働かない頭でぼんやりと考えていると、母さんが嬉しそうな表情でドアをチラチラ見ながら言った。


「お友達がお見舞いに来てくれたわよ〜」

「え……」

「桐生くん達、入っていいわよ〜!」


(えっ!?桐生達…?)



ガチャッと開く音とともにドアの向こうから2人、桐生と彩原が入って来た。



「よう、橘!風邪ひいたって聞いたから見舞いに来てやったぞ」

「橘、大丈夫?リンゴ持ってきたけど食べれる?」


(ほ…ホントに桐生と彩原だ……)



目を擦って確かめるが、確かに2人はそこにいた。



「じゃあ晴、何かあったら部屋の外にいる使用人か母さんに言ってね」

「うん…わかった」



今だご機嫌な母さんは私の部屋から出て行った。

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