《MUMEI》

国雄さんが手招きする。耳を寄せた。

「あのね」

内緒話のようだ。国雄さんの小声が聞こえた。



   ピチャ……

「………………ヒッ!」

背筋が震えた。耳の奥が擽ったい。


「あはははは!驚いた?も、かーわーいーいー」

一昔前の女子高生みたいな言い方された。


「国雄さーん!」

耳を袖で擦る。


「この間なな君も同じこと聞いてたよ。なな君が知ってるならいいじゃない。」


七生が……。


「それとも二郎君がよければ実演付きでレクチャーするけれど?」

満面の笑みでベルトに手をかけた。なんか国雄さんの表情って読み取れない、得体の知れない怖さがある……。


「いや、無理です……あっ」

国雄さんの手がジーンズの上の俺の臀部の窪みに触れてきた。


「慣らしたら入るよ。」


「う、ギャーーーーーー!」

混乱して叫んでしまった。


「冗談だよ、ごめんね。なな君のだもんね?」

なだめながら頭を撫でてくれた。いつもの国雄さんに戻ってる。






「二郎!」

乙矢が土足で国雄さんの家に上がった。手首を掴まれて、玄関まで引きずられる。

「失礼しました。」

一言残して乙矢と外に出た。相談に乗ってくれた分、御礼を言いたかったんだけど。


「痛い」

乙矢は握力を緩めた。


「悪い……。」

どこまで歩くのか。ああ、この橋は七生に結婚申し込まれた場所だ。
乙矢が真ん中辺りで歩みを止めた。

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