《MUMEI》 聞いてみた。自販機から戻ってきてベンチに座り、私にコーヒーを渡した。私達は同時に缶を開け、半分くらいまで一気に飲んだあとに、私はふと気がついた。 (あ…さっき、普通に目を見て喋れてたな) あの動機のようなものもないし、とりあえずは良し…かな。 だが、まだ聞きたいことが聞けてない。 私は桐生が帰ってしまう前に聞こうと、すぐさま質問した。 「桐生、あのさ…なんで桐生はテストで首席を目指してるんだ?」 「…え……?」 桐生は驚いて、大きく目を見開いていた。このことは桐生の口から直接言われたことではないため、驚かれるのも無理はない。 「前に彩原から聞いたんだ。詳しくは知らないけど…」 「……そっか…アイツがね…」 「聞かれたくないことだったら、やめとくけど…」 (また嫌な空気になるの、嫌だし…) 桐生は私の目を見ておらず、ジュースをぐいっと飲み干して、今座ってるベンチから近いゴミ箱に空き缶を捨てにいった。 (怒らせたかも……) やっぱり聞いてはいけないことだったんだ… そう思ったとき、桐生が勢い良くベンチにドカッと座った。 桐生の周りの空気は、どこか刺々しい。目も合わせてくれない。そんな空気に耐えられず、私は謝った。 「ごめん。他人に聞かれたくないことなんだろ?…やっぱりいいよ」 どうせ桐生はすぐ忘れるし、明日になったらまた普通に話せるよな… だから、一刻も早くこの場を去りたい。 「…俺ん家さぁ、昔は両親共働きだったんだ」 私が去ろうとしてベンチから立ち上がった瞬間、桐生は身の上話をしだした。 「…赤の他人に話していいのか?」 恐る恐る聞いてみる。すると桐生は、どこか寂しさを帯びた笑みを見せて言った。 「聞いてくれ」 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |