《MUMEI》 「寂しいなら、僕が傍にいるよ。…独りの寂しさは僕も知ってるから」 桐生の顔がさっきよりも驚いていた。その顔を見て、私はハッとして手を離した。 「あ…悪い!その、同情とかじゃないからな!?僕はただ自分がそう思っただけで、その……」 自分でも何を言ってるんだろう。言い訳がましく途切れ途切れに言葉を発する私に、桐生は優しく微笑みかけてくれた。 「…サンキュ、橘」 「なっ…何がだよ!?僕、何もしてないだろ!」 「橘の言葉で元気出たから」 (元気出たって…あれだけで?) でも、私の言葉が桐生を元気づけれるのなら良かった。次第に私も笑みがこぼれる。 「そりゃあ良かった」 そのとき、私の心臓の鼓動が速くなっていった気がしたが、不思議と悪くない感覚だった。 「じゃあ、帰るか」 少し顔が赤くなった桐生がベンチから立ち上がり、公園の出入口に向かって歩きだす。 「おう、待てって!」 私も飲み干したコーヒーの空き缶をごみ箱に捨てて、桐生のあとを追い掛ける。 …と、そのとき不意に桐生が私に問いかけてきた。 「あれ?でもさ、橘の両親は結構橘を見てくれてると思ったけど…」 歩きながら首を傾げる。 桐生は前に、私の家のパーティーに招待したことがある。そのときの両親を見ているから、桐生は知らないのだろう…あれは建前の人格だって。 「人当たり良く上手く隠すけど、僕のことは時期社長としか見てないよ。…一度だって、僕自身を見てくれたことないし」 (少なくとも父さんはそうだ。母さんは…どうだろうな?気にかけてくれるかと思いきやそうでもない) 私は下を見て俯いた。 桐生に、こんな歪んだ顔を見せたくないと思ったからだ。 「…なんで、時期社長としか見られてないんだ?」 前へ |次へ |
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