|
《MUMEI》 「…僕が、あいつらにとってただのコマだから」 自分でもわかるくらいひどく冷たい声で言った。 俯いた顔を上げると、私はさっきとは一転して冷めきった顔をして桐生を見つめていた。その冷たい眼差しに、桐生は驚きを隠せなかった様子。 「小さい頃から、僕が社長になるためだけに色んな教養を受けた。幸いにも、僕は基本なんでもできてたから良かったけど…」 私はまた俯いてしまった 「後になって、両親の口からハッキリと『晴は社長になるためだけに生まれたんだ』って言われた。」 (そのときからだ…私が自由を欲するようになったのは) 「薄汚い大人を信用せずに自分だけを信じて今までやってきた」 桐生は、一言も喋らずに私の話を聞いてくれてる。 「だから僕は…独りでもいいって思ってたんだ。変な優しさは毒だし、独りの方が楽だし、今もそう思う」 桐生の方を向き、強い意志を思わせる瞳をしてハッキリと言っていた。桐生が何か言いそうな雰囲気だったが、私は続けざまに言う。 「でも、友達は別」 「え…？」 「桐生や彩原がいてくれるから、僕は寂しくないんだ」 (友達なんて、いてもいなくても同じだって思ってたけど…そうでもなかった) 「僕が今寂しくないのは、桐生達がいるからだよ」 満面の笑みで言うと、桐生は目を大きく見開いた。…と、次の瞬間、顔を真っ赤に染めていた。 「なっ…んなこと、よく恥ずかしげもなく言えるな!!こっちが照れるわ!!」 「あっ、おい桐生!?待てって！」 さっさと早歩きで行ってしまう桐生。一瞬、私がまた何かやらかしたかと思ったが、怒っている様子ではなかった。むしろ、恥ずかしさと喜ばしさがごっちゃになったような顔をしていた。 「桐生ってばーっ！」 私は必死に桐生を追い掛けた。 前へ |次へ |
|
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |