《MUMEI》
知人との再会
幸いにも、ジョーカーが隠れている場所にはいくつか通れる道があるため、素早く動けば難を逃れることが可能だった。


(ダストはどちらかと言うと善良なマフィアだ…今は避けたい)


ダストの下っ派がゆっくり歩いてくる中、ジョーカーは走り去る準備をしてダストの下っ派のいる方向から180度方向転換し、真っ直ぐ走り出した。



「あっ!?逃げやがったぞ、あの女!!」

「追え!!」



ダストの下っ派どもはジョーカーの後を必死に追いかけるが、ジョーカーは男数人よりも速く走る。


ヒュオォ…


軽く風が吹き、ジョーカーの長い髪を揺らす。ジョーカーは構わず走り続けた。やがてダストの下っ派数人はジョーカーを追うことを諦めた。



(もうあいつらはいないな…)


ジョーカーはひたすら走った末、誰もいない路地裏の片隅に縮こまっていた。


(見られたのは不覚だったが、仕事はしなくては)


そう思い、再び立ち上がるジョーカー。
……だがそのとき、ジョーカーにとってよく見知った男が姿を現した。


「……姉さん?」


なんとも久しい声に、ジョーカーは俯いてた顔を上げた。

そこには、短めな茶髪にオレンジの瞳の、所々刺繍を施してあるボロい服を着た青年がジョーカーから少し離れた先に立っていた。



「…!!お前……リク!」


「やっぱり、姉さん…」



嬉しそうにジョーカーを見る青年。どこか懐かしさを帯びた瞳が、ジョーカーに向けられる。

ジョーカーもまた懐かしい気持ちになっていたがすぐにそれらを取り払い、キッと目の端を釣り上げる。


「何故、お前がここにいる?」


「あ、今の住んでる家、この近くだから……」


知らなかったな……リクが身近な場所にいただなんて。しかも、ここらに住んでるなんて。


知人に、弟に会えたのは嬉しい誤算だが、私の問題に巻き込むわけにはいかない。


感動の再会といきたいとこだが速やかに立ち去らねば。


「私は今忙しい。また今度ゆっくり話そう」


「あ、姉さんっ……!」


私を呼び止めようとする弟を振り切り、絶対追い付けないだろう速度でその場を離れる。


……また今度、か。


いつから私は平気で嘘をつくようになったのだろう。



感傷に浸ってる暇はない。早くこの地から離れなくては。誰かと一緒にいたら、きっと巻き込んでしまうから。私は一人でいるべきだから。



リクとは、もう二度と会わない。弟を危険に巻き込みたくない。


私と違って、リクは普通の人間だから。



温かくなりかけた心を戒め、どこかのビルの屋上に着地する。


弟の姿は見えない。……昔とちっとも変わってない。見ただけでわかった。今も昔も慈愛に満ちたやつだから、きっと私を探すだろう。


見つからないように。息を殺して。ひっそり生きる。


目的を果たして、自由を掴むまで。

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