《MUMEI》

夏休み突入してすぐ、何かショックなことがあった気がするが、まあ良いか。その後の、橘と彩原がケンカした件では少しビックリした。


「桐生、橘とケンカしちゃった…」


電話で元気のない声が携帯から聞こえてきた。彩原の声だった。彩原とは、橘と友達になってからよく話すようになっていて、電話番号などを知り合ってる。…ある意味、橘より仲がいいかもしれない。



(まさか、橘と彩原がケンカするなんてな…)



その件では俺は部外者だったためあまり深くは知らないが、どうにか収まったようだった。そしてその件が終わった数日後、彩原から電話がきたため、また何かあったのかと急いで電話にでる。



「どうした、彩原!?」

「あ、もしもし桐生?ちょっと話したいことがあるんだけど…」

「話したいこと?」


彩原の声を聞く限り、橘とケンカしたって話題ではないようだ。もっと別の大切な用事らしい。



「少し前、橘と仲直りしたときのことなんだけど…」

(なんだろ?)


俺は黙って彩原の話を聞いた。


「橘が、家でも学校でも敵だらけって言ってたんだけど、あれってどういう意味なの?」


(家でも学校でも…?あっもしかして…)


彩原には、橘に今まで友達がいなかったことは言ったが、橘ん家のことは話してなかったことに気づいた。


(これって言っても良いのか…?人ん家の事情だしなぁ)


悩んだ挙げ句、「俺もわかんねぇ」と答えた。そして電話は切れ、自室のベッドに突っ伏した。


(望んでもいない未来を強いられるのは、息苦しいよな…)


体育館での橘の話にはまだ続きがあって、中学まではそれなりに有名な金持ち学校に通っていたと聞いた。そしてそこでも自分の居場所はなかったということも聞いた…


(俺は橘ん家みたいに複雑な家庭に生まれてないからわかんないけど、橘は俺よりずっと寂しい所にいたんだな…)

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