《MUMEI》
2
「……随分と、賑やかね」
一夜明け、日も高く真上に昇った時分
適当な気に停まり、仮眠を取っていた山雀の傍らにあの少女が立った
ぼそり呟かれたソレに耳を済ませてみれば
その言葉通り、辺りがひどくざわついている事に気が付いた
「……山雀、見てきて」
少女からのソレに山雀は短く了解を返し、鳥のソレへと姿を変える
飛んでそのざわめきの中心へと近づいてみれば
以前、ヒトの街を訪れた際に対峙した、あの時の人物がいた
何の騒ぎかと近くの木に潜む様に停まり、その様子を窺ってみる
「……さてみなさん。今日も鳥狩りに向かいましょうか」
穏やかな声で群衆に語り掛ければ全員が鬨の声を上げ
一斉に同じ方向へと歩き始めた
何処へ行くのだろうか
どうしてか気に掛り、その後を追って辿りついた先にあったものは
枯れ果てた巨木
そこには烏が数羽、群れを成し羽根を休めている
「全て殺してしまいましょう。もしかしたら、この中にも(子)がいるかもしれませんから」
微笑む表情にまるでそぐわない言の葉を吐くその声に
皆が賛同を示すかのような声を上げ、その烏の群れへと迫り寄っていった
あの群れは唯の烏の群れ
だが群衆は中に(子)がいるのかもしれないという疑念に駆られその全てを殺していく
羽根をもぎ、首を折りそして放り置いて
「……いつまでそこで傍観しているつもりですか?」
しばらくその様を眺めていた山雀へ
徐に声が向けられ、皆の視線が山雀が停まっている気に向けられた
気づかれていた、と山雀は舌を打ちながらも
仕方がないと人の身へとその姿を変え木から降りる
「……態々殺されに来たのですか?良い心掛けですね」
現れた山雀へ嘲るような笑みを向ける相手
山雀はさして気に掛けるでもなく、脚元に堕ちた烏の死骸を唯見やる
(子)は、決して群れる事はない
群れを成すのは(子)になり損ねた哀れな烏たち
(子)になり損ねた上にこの仕打ちではあまりにも報われない
せめてこの死が有意義なものになるように
山雀は死骸を拾う事をすると相手へと一瞥を向け
だが何を言う事もなくその場を後にし寄生木へと戻っていた
「……何か、あった?」
気に停まるなり、少女からの声
山雀が先に見たままを少女へと報告してやれば
「……馬鹿な事、するのね。さすがはヒト、愚かだわ」
「どうにかするつもりか?」
「当然よ。……全て殺される前に、全て、殺して」
「珍しいな。お前がそんな命令するなんて」
「このまま放置しておけば手遅れになってしまう。だから」
早急に手を打たなくてはと少女
少女の決断に、だが山雀は表情の奥に雲った様なソレを見つける
人を手に掛ける戸惑いが未だにあるのだろうか?
僅かに俯いてしまう少女の頭へと手を置いてやれば
「……私は、平気よ。人を殺せば、その分だけ雛の餌になるんだから」
言いながら少女は山雀の手を取る
何かを確かめるかの様に触れる事をし、自らの頬へと寄せていた
「……山雀の手ばかり、汚れてしまうけれど」
「今更」
ソレが嫌なのであれば当の昔に姿を消している
ソレをしないのは
「今の処、お前の傍は居心地が良いからな」
もうしばらくは離れてやるつもりはない、と告げる事をしてやれば
少女の表情が安堵に解けていった
その微かな笑みに、山雀はフッと肩を揺らし、少女の頭を撫でてやる
「……私は、子供じゃないわ」
そのしぐさにがまるで子供扱いだとか頬を膨らませる少女
更に子供の様なソレに、等々山雀は声を上げ笑う事を始めてしまっていた
「山雀!」
「悪い。ちょっと、可笑しくて」
子供ではないと言いながらも仕草は子供のそれそのもの
常日頃、すまして大人日ている顔がこんな風に変わる事に何となく安堵していた
「は、早く行ってきて!今すぐに!!」
「了解」
これ以上言ってご機嫌を損ねてしまっても困る
山雀は少女の言葉通り、改めて人里へ
「さぁて。全員、餌にでもなって貰おうか」
街近くにある林、その中で最も高い木の上に立ち
鳥狩りにと群れを成すヒトのソレを見下す
なんて人は愚かなのだろう
見下し、憐れみ、そして口元に歪んだ笑みを浮かべ山雀はその場から降下する事を始めた
「まずは、一匹目」
息が触れるほど間近に降り立つと

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