《MUMEI》

そう思うと、無償に心がギュウッと苦しくなったのは何故だろう…?


僅かな疑問を残し、俺は眠りについた。




そして後の勉強会。
このときから、橘のことを変に意識し出してしまう。


「なあ桐生、なんで家の中誰も居ないんだ?」



俺の部屋で勉強会を開こうとしたときのこと、橘が不意に放った言葉だった。


橘にとっては深い意味はないだろうけど、俺は忘れかけてた寂しさが込み上げてきて黙り込んでしまった。彩原もどうして良いか分からず、そのまま重い空気が漂ってしまう。



(やっちまった…軽いノリでサラッと、両親は仕事なんだーって言やぁ良かった)


情けないな…あんな言葉ひとつで心が乱れるなんて。たかが寂しい気持ちを思いだしただけで…

だがそのとき、俺はふと気づいた。


(あれ?でも、橘からこういうふうに聞くことってあんまりなかったよな?)



橘は慎重で冷静で、なかなか誰かの内側に土足で踏み行ったりしない。俺はそれが少しもどかしかったのだが…


(初めてだな、こんなの)



そう思うと、段々嬉しくなってきた。


その後、なんとか微妙な空気がなくなり、俺達も仲直り(?)した。だが、そのときの橘の緩んだ笑顔が、今でも胸に焼き付いて離れないのが悩みの種だ。



橘が風邪をひいた日、俺と彩原とで見舞いに行ったんだが…


「お前はただ安眠妨害しただけだろ」

「なっ……!?」


仮にも見舞いに来た奴に対しての言葉とは思えないものだった。だが次の瞬間、俺はもっと動揺してしまうことになる。


「でも…来てくれてありがとな、桐生」


満面の笑みでにひゃっと笑う橘の顔は可愛らしくて彩原がいなければ今にも襲ってしまいそうだった。

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