《MUMEI》
「小人曰く、地球は狙われている、らしいよ
ある日、全日程の授業が終わり、なんの部活に所属しておらず帰宅するだけの俺の背後から、突然話しかけてきた。


「地球は狙われている」


…………猛烈に聞き覚えのある台詞。俺の世代ではないので今の十代に通用するかどうかは謎。
それに続き、
「君は選ばれた。悪を滅ぼすために、勇者になってくれないかい?」
声のする方へ振り向くよりも先に、「はあ?」という疑問の声が先に出る。なんだ今のは。どこのインキュベーターだ。
振り向くとそこには、なにもいなかった。
再度「は」と口が漏らす。
なんだったんだ今の。幻聴だったのだろうか。
「どこを見ている?」
背後!?バッ、と効果音のしそうなくらい素早く振り返るが、やはりいない。
「だからどこを見ているんだい?ここだよここ」
「…………」
恐る恐る下を向くと、そこには小人がいた。
羽根を生やし、全身の至るところから微粒子的なものも出していた。
外見は中性的で、声も子供のような感じで性別の判断がつかない。というか性別あるのか?
なにはともあれ、そこには小人、というより、妖精がいたのだ。
まるで昆虫のような四枚羽根を羽搏かせ、俺の顔の高さまで飛んだ。飛び方がやけにリアルで内心引く。
「思っていたより驚いていないね。この世界には私みたいな個体は存在していないと聞いたけど」
驚いていないわけではない。ただただ、リアクションを取るのが癪なだけだ。
「あんた、何者なの」
流石に見てみぬ振りは不可能だろうと判断した。
「私は妖精天使のグルルヌ。以後お見知りおきを」
妖精や天使の割にはアグレッシブな名前だった。
というか、名前を聞きたいわけではない。
「今一度問おう。地球の平和のため、悪を滅ぼすため、勇者になってくれないかい?如月葉月」
今回は俺の名前を含み、また俺に尋ねる。
平和。
悪。
勇者。
ロールプレイングゲームで遊んだことのある者なら、必ず耳にするだろうこの単語。
だが、実際現実で耳にすると違和感がある。
ゲーム以外であったら、まず拘わらないような単語が、俺の身近に現れた。
恋に恋する花の男子高校生二年。
恐らく人生で一度どころかこの地球上で数少ないだろう面倒事に巻き込まれつつあることに深くため息を吐き、冷淡と、失笑の混じった一言を発する。
さんはい。
「だが断る」

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