《MUMEI》
「ダメとは言わせないぜ?」
「え、断っちゃうの?」
信じられな〜い、と某サッカー選手がいうような台詞と表情をするグルルヌ。使い方、間違ってるぜ。
「いや、これで断らない方が頭おかしいだろ」
これが全て幻聴や幻覚だったなら、俺の頭はパーである可能性は否めないが。
「そうだね、説明不足だったことは謝罪しよう。一から順に話すから、それでいいかい?」
右手で顎を触れ、若干目線を下げ、考える素振りをする。ぶっちゃけこんなことしなくても、答えは変わらないけどね。
「だが断る」
逃げるが勝ち。
その場から走り去った。
あの小蝿のような奴のスピードがどれくらいかは知らないが、とにかく走る。ん?小蝿だったらスピード勝負で勝てなくね?
まるで虫が顔を横切るようなヴゥゥ…………ンという不愉快な音が真横を通り過ぎ、俺の前にグルルヌが立ち塞がった。
「いきなり逃げるとは、君はそれでも勇者候補かい?」
そんなの知るか、と突っ込む。やはり掴んで遠くへ投げ飛ばしとくべきだったと後悔した。
「さて、勇者になる覚悟はできたかい?」
「俺は一度だってあんたの話を肯定していないし勇者になるなんて一言も言ってないから」
「悪魔は君を待ってくれない」
二度目のそんなの知るか。
悪魔だろうとバグ魔だろうと、俺は勇者になる気などない。
「ていうか何で俺なの?ただ契約して魔法なんたらを増やしたいんだったら無理だぞ。見ての通り男だから」
「なにを意味のわからないことを言っているんだい?」
わからなくていいよ。
それにしても困った。思い切り付きまとってくる。鬱陶しい小蝿だな。
「そもそも勇者のどこが不満なんだい?」
「言い出したらキリがないな。まず戦わなきゃいけないところが嫌だ」
「勇者として根本的なところを否定するね。勇者なんだから戦わなくちゃいけない。でもそれは人の助けになるんだよ」
「いや、俺がいつ人を救いたいと言った?」
「人を助け、救ったという優越感に浸り、ちゃっかりと見返りを求めることができる。人間というのはそういう生き物ではなかったかい?」
グルルヌは首を傾げた。
「お前…………その話を聞いて勇者やりたいって思うやついるのかよ」
少なくとも、俺は逆にやる気が下がった。こいつ、もう何も喋らない方がいいんじゃないか?
だが待て、しばし。
そうだな…………。
「見返り…………そうだ、見返りだよ」
グルルヌの言葉に一部同感し、指をパチンと鳴らした。
「お前の言う見返り云々の話はぶっちゃけ間違っていないと思う。ならその話に乗っとると、見返りは求めていいんだよな?ダメとは言わせないぜ?人間というのはそういう生き物なんだからさ」
一気に畳み掛ける!
「インキュベーターもどきなら、俺の願いを叶えることぐらい、できるよな?」

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