《MUMEI》

その人間が驚く声を上げる暇もないまま、首を切り落としていた
倒れ伏す肢体
周りにいる者は誰一人それをさせてやるでもなく
変わり果てたその姿を唯眺め見るばかりだ
「矢張り、私達に仇なすのですね」
群衆の中ほどから聞こえてきた声
その声に周り一斉に静けさを取り戻し、声の主の為に道を開ける
目へと出てきた相手は山雀を見るなり蔑むような視線を向けていた
「……所詮、鳥も獣。ヒトの事など、解する筈も有りませんか」
「それはお前ら人も、同じだと思うが?」
「……所詮は互いに相容れぬ存在。分かりあえる筈も有りませんか」
言って終わりに相手は身を翻す
歩き始めてすぐ、態々首だけを振り向かせ
「分かり合えなければ、殺しあうだけです。それでは」
それだけを吐き捨てると皆を引き連れその場を後にしていた
去っていく様を山雀は唯眺め見
ある程度の距離が取れたことを確認すると山雀も身を翻す
取り敢えず餌は確保できたので持って帰ろうと
脚元に転がったままの死体を担ぎ上げ、少女の元へと戻る事に
「お帰り。山雀」
相も変わらず表情薄の少女に出迎えられ
山雀は担いできた餌を無造作に放り投げる
取り敢えず一匹取ってきたがと顎をしゃくれば
まだ完全ではない親鳥が、ヒトと鳥としての意識が混濁する中それを食み始めた
咀嚼してはそれを雛へを繰り返し
人間一人を数分も掛からずに食べきってしまう
「……まだ喰わすのか?」
喰い散らかされたあたりを見回しながら山雀は呆れた様子で少女へと問う
当然だと言わんばかりに頷いて返してくる少女へ
山雀は溜息を付きながらも、また探しに出かけていく
「相変わらず忙しそうだな、山雀」
林立する寄生木を伝いながら、探すことに飛び回っているとふいに掛けられた声
脚を止め、向いて直ってみれば
「……啄木鳥」
顔馴染みのその人物がそこに居た
久方ぶりに見るその顔に、ついその旨を伝えてやれば、啄木鳥は肩を揺らし
「……しっかし、俺ら鳥には生きにくい世界になったもんだな」
苦笑を浮かべ呟いた
問いに対しての返答ではないがそれに関しては同意できる、と山雀は苦笑を浮かべて見せる
「それで?お前さんは何に奔走してるんだ?」
ふいに話題が変わり
啄木鳥からのその問いに山雀は事の流れを適当に説明してやった
「……成程。親鳥の孵化、か」
「安易な考えだと思うか?」
「……さぁな。それを決めるのはお前の主だろ」
周りが何を言った処で無駄だと啄木鳥は踵を返す
「そうそう」立ち去り際、啄木鳥は態々首を巡らせ
「もう少し西のほうに行ってみろ。面白い集落がある」
「面白い?」
一体、何が面白いというのか
僅かに表情を顰めて見せれば、だが相手は行ってみれば分かる、と顎をしゃくる
「見れば、お前の主の考えも、少しは変わるかもな」
何かを含んだ啄木鳥のその物言いが気になりはしたが
山雀はそれ以上聞く事はせずに置いた
取り敢えず気にはなったので、その集落へと向かって見ることに
「……アレの事か」
飛んで見降ろした景色の中で宿り語がやたら密集して生えている場所を見つけ
その中に隠れるかの様にある小さな集落を見つけた
降り立ち、周囲を見回してみるが、別段変わった場所という訳ではない
啄木鳥の言っていた面白い村とはどういう事か
その真を探るべく、山雀は村の中を歩いて回る事に
「……人間」
しばらく村の中を歩いていると聞こえてきた声
一体どこから聞こえてくるのか
微かにしか聞こえてこないその声の主を探ろうと視線を巡らせて見れば
「死ね!人間!」
突然の怒号、そして目の前に現れる人影
山雀へとその手に持っていた刃物を振り降ろしてくる
ヒトなどではないのに
山雀は僅かに肩を揺らし、向けられるそれを軽々と交わしていた
「……行き成り、なんだ?」
山雀が避けた事でその相手は体勢を崩し
その体勢を立て直すこともしない内に刺すような視線で山雀を見上げる
「……人間が、何にしにここに来た?}
人の姿を取っている山雀をすっかりヒトだと思い込んでいるようで
だが、分からない
何故、この集落の住人はヒトを憎む?
それが啄木鳥の言っていた面白い(何か)と関係があるのだろうか?

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