《MUMEI》 「最終目標は、デストロイ級」勇者になって三日…………。 グルルヌの言う悪魔とやらは未だに表立って行動していないらしく、勇者の出番はまだない。 俺の知る勇者は、有名なロールプレイングゲームのように、旅をしながらコツコツと己を磨き上げ、世界を平和に導くために戦うというような感じだ。 実際に俺がしていることは、今まで通りの生活を送っているだけ。 あれ?勇者なんて必要あるの?充分平和じゃね? それなりに旅をすることに憧れを持っていたけど、使命感を背負った旅なんて面倒だから、別にいいんだけどね。 「なあグルルヌ」 小さく呟くと、ブレザーの胸ポケットから約五センチメートル程の小人がひょこっと頭を出した。自称、妖精天使。間違いなく嘘だ。 「勇者ってさ、終着点ってあんの?もしかして一生勇者のまま戦い続けなきゃならないの?」 これを肯定されたら、恐らく俺は三、四十歳程で人生に絶望し、生涯を終えるだろう。自分の子供の顔が見れりゃ終わったっていいや。あ、でも孫の顔も見たいかな。 「…………君は本当にズレた思想の持ち主だね。その歳で急に孫の顔が見たくなるとは…………」 「人の心を読むんじゃねえよ。で、アンサーは?」 やれやれ、とグルルヌは一言呟いてからお俺の質問に答え出す。 「一応はあるよ。この世は天界、地獄界、人間界の三つに分類されているのは知っているかい?」 「知るわけねえだろ」 「そうだった。人間は未だにその存在について未解明だったことを失念していた。まぁいいさ。人間界に生きる者が土に還り、再び戻ってくる場所というのが、《要の扉》という所さ」 「…………ん?待てよ、死んだら閻魔様ってとこに直通じゃねえの?」 「それは人間の想像上でしかないのさ。おしいところまではいっているが、少し違う。仕方がないさ。人間界の生き物が死んだら、元の姿のまま戻るなんてことは一切ないのだから」 「そうかもしれないけどさ。…………いや、やっぱいいわ。なんか重てえ」 そこまで話すと、後ろからドン、と強い衝撃が肩に生じた。どうやら人とぶつかってしまったらしい。 前方から来たのではなく、後方から。つまり、相手が気を付けていれば回避できたはずだ。 名前までは覚えていないが、確かクラスメイトの地味なメガネ男だ。携帯を弄っている。なるほど、それで前方不注意な。 謝りもねえのかよー、と絡むのも考えたが、朝は眠い。それにグルルヌとの話も終わっていない。 「さて、話を続けるよ。その《要の扉》を通過すると三つの世界のどれかに行き着くことができる。それが天界、地獄界、人間界さ。君の言う閻魔様の代わりというのがそれじゃないかい?」 「その通ったら行き着く世界ってのはさ…………アトランダム?」 「死んだ者によって行き着く世界は変わる。善良な人間は天界。悪道な人間は地獄界。死ぬ直前に後悔などを残していると、再び人間界の生物に転生する」 「お、おおぅ…………」 「もう脳味噌の要領をオーバーさせてしまったようだね。なら難しい話はここまでにしておこう。君の最初に聞いた質問の結論を言おう。勇者の最終目標は地獄界の中心部にある《イグドラシル》という悪魔を無限に作り出す装置を破壊することだ」 「ファッ!?地獄に堕ちろって言うのか!?」 「その点は大丈夫…………のはずさ。君はまだ悪道とは言えない人間だしね。往復切符はこちらで用意するよ」 まだ、という言葉にそこはかとなく嫌みを感じる。 「ならもっと自信もって大丈夫って言えないのか?当たり前だけど心配になるよ。マジで」 「…………とりあえず最終目標を教えたろう。今はまだその往復切符の準備ができていないから、ひと先ずはこの人間界に堕りてきた悪魔を駆逐してくれないかい?」 納得いかないことは、十二分に、あった。 けど、今はやるしかない…………んだろうなぁ。 朝の登校中に聞くには、デストロイ級に重い話だった。 前へ |次へ |
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