《MUMEI》

「っ!!!」
 櫛の先がフローラの耳を掠めた。
「…すまない」
(もぅ止めて………)
 レオンには何の罪も無い。彼は勤めを果たそうとしているだけで、フローラを苦しめようとしていない。
(怖いょ……)
 フローラの我慢が限界に達した、その時。
「終わったよ。何故そんなに怯えていたのかな?」
「ぁりがとうございます…。別に何でもないのでっ!き、気にしないでくださいね!?」
「………、そうか」
(バレバレじゃないかぁ………っ!!!)
「百面相されても困る」
「ふぇ!?」
「オレはこれで。…お休み」
 レオンは音も無く、フローラの部屋をあとにした。
「はぁ………」
 フローラは椅子から離れた直後、盛大に溜め息をつきながらその場に崩れた。
(これを毎日…?身体が保たないよ…)
 ボフンッと音を立ててベッドにとびこんで、布団の中に潜り寒くもないのにダンゴムシのように身体を丸めた。
 眠りに就くことは、その体勢と無関係だったが容易でなかった。

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