《MUMEI》 友達今までにされてきたイジメの内容と、綾女にされてるイジメの内容を誰かに話したら、絶対に今までの方が辛いと、言われるだろう。 でも僕は、綾女には…綾女にだけは、女扱いされたくなかった。 綾女だけは、僕の気持ちを理解してくれてると思ってたんだ。 綾女だけは僕の味方だと思ってた。 ずっと信じていたんだ…。 綾女しかいない、と思えるくらいに。 だから僕は、凄く辛かった。 “裏切り”とも呼べるその行為は、殴られたり蹴られたり…、空気のように扱われるイジメより、 ずっと辛かった。 一言「嫌だ」と言えば、こんな思いしなくて済んだのかも知れない。 けど僕が綾女に、そんなこと言える訳なかった。 だって、嫌われたくないから…。 もし僕が綾女の命令に逆らって、綾女を怒らして、口もきいてくれなくなったら……。 そう考えたら、女装させられて登校した方がマシだ。それに、秘密を共有してると思えば、女装も楽しめる。 だから僕は、このままでいい。 綾女が僕といてくれればいいんだ……。 もともと友達なんていなかったし、人と話すのは苦手だったけど、男だということがバレないように、今まで以上に人と話さなくなっていたせいで、友達はできなかった。 高校デビューなんて話よく聞くけど、綾女がいるんだから友達なんか必要ないし、求めてもいない。 そんなふうに思っていたのに“友達”は急にできた。 友達……? いや…、僕は別に友達だなんて、思ってないけど…。 その子と出会ったのは、夏休みに入る二週間前。 学校からの帰り道、僕は綾女にノートを取ってくるように言われて、誰もいない教室に戻った。 前へ |次へ |
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