《MUMEI》
親友
綾女はスマホ持っていないし、父子家庭の僕の父親は、高校入学と同じくらいに海外行きが決まり、月に何度かやり取りするくらいで、僕のスマホにメッセージを送ってくる人なんて父さんか、さっき連絡先を交換した矢野さんしかあり得ない。

『まだだよ』

暫く悩んだけど僕は、そう返信した。

『そか☆あたしもまだだよ〜(T_T)』

連絡先を交換したものの、矢野さんとのやり取りが面倒で、僕は返信するのをやめた。
けど、すぐにメッセージを受信する。

『茉希ちゃんって呼んでいい?』

“茉希ちゃん”という呼び方に、複雑な気分になった。
けど、女子として生活してる今の僕が、断るのも変だから一言“うん”と返すと、すぐにまた新しいメッセージを受信した。

『ありがとう☆茉希ちゃんってさ親友いる?』

親友と言われて、すぐに綾女が浮かんだ。

『いるよ』

『もしさ、親友に裏切られたらどうする?』

矢野さんの質問は、まさに今の僕の状況だ…。

『許すよ』

『なんで?』

『関係が壊れたら嫌だから』

『それおかしくない?』

矢野さんの質問に困っていると、また新しいメッセージを受信する。
そして、そのメッセージで僕は、まるで何かに押し潰されているように胸が痛くなった。






『裏切られたんだから、もう壊れてんじゃん』





そうなのかも知れない…。
壊れているから綾女は、僕を虫けらでも見るような目で見るのかも知れない。
名前を呼んでくれなくなったのかも知れない。
笑ってくれなくなったのかも知れない。

今だってそうだ…。
昔は学校に行くときも、帰りも一緒だった。
僕が学校に忘れ物をしても、一緒に来てくれて、一緒に帰ってた。
こんなふうに、置いて行ったりしなかった…。

『でも許すよ』

綾女との関係が、もう既に壊れているなんて思いたくなくて、僕はそう返した。

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