《MUMEI》

道は下の舗装(ほそう)も見えないほどに紅葉が降り積もり、先程まで読んでいた少年探偵団の影響か、恐ろしい妄想が肥大化する一方の私は、不気味な口を開ける防空壕のほうは努めて見ないようにしながら、
自分自身を勇気づけるためにヒーロードラマの主題歌を口づさみつつ、紅葉を蹴散らし蹴散らし進むのでした。


俺は♪
涙を流さない♪だだったー♪
ロボットだから♪マシーンだから♪
だらったー♪
だーけどわかるぜ♪
熱い友情♪


ガサっ、ガサっ、


足下で落ち葉の踏みしめられる音が響きます。


風にざわざわと騒ぐ、枝葉の音が周囲の空間を支配しています。


げ♪げ♪げげげの♪げ〜♪
夜は墓場で運動会♪
楽しいな♪楽しいな♪
お化けは死なない〜♪


やめろー!俺やめろー!
鬼太郎は今歌っちゃ駄目だろ!


落ち葉で埋まる坂道を登って行くと、やがて前方のほうに蔦の這うコンクリートの土台が見えその上の塀の向こうから、


ぐもー....ぐもー....


屠殺場の哀れな牛達の声が、風に乗って流れて来るのでした。


ああ....早くこの坂道を登りきって、人界に出たい....


その時、感じたのです。


ガサっ、ガサっ、


と落ち葉を踏む自分が立てる足音とは別の、もうひとつの音を背後数メートルの距離に。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫