《MUMEI》

「しっかしびっくりしたなぁ〜、橘があんなに怒りモードなの初めて見た」


「皆がうだうだ言ってたからさっさと終わらせようと行動しただけなんだけどな」


「皆怯えてたぞ?」

「誰に?」

「お前に」


ああ、私に怯えてたのか…知らんかったわ。


「んでもって、怒らせちゃまずい人ランキングベスト3に入ったらしい」


「そんな下らないランキングあったのかよ…」



普通に怒っただけじゃん
なんでそんなビビるのさ


「橘への恐怖で皆が動いてくれて良かったじゃん!」


「結果的には良くても僕の心情がよろしくない」


これから怯えられるとか嫌だぞ。


「それに権力を振りかざすみたいでそういうの嫌いなんだよ。ましてや恐怖心で人を動かすとか最低で愚直な行為だ」


苦虫を噛み潰したような顔で率直に言ったら笑われた。


「ははっ!橘ならそう言うと思った」


「だからと言って皆と一致団結してさあ頑張ろうってなノリにはならないけどな」


「そりゃありえねぇな。槍が降るわ」


自分で言っておいてなんだが、それはあんまりな言い様じゃなかろうか。


何気に内心ショックを受けていると、いきなり僕の頭に温かい感触が伝わった。びっくりして顔を上げると、頭の上のそれが男らしくゴツくて大きな桐生の手だと気づいた。


「でも橘は権力どうこう関係なく皆を引っ張ってくタイプだよな。どこぞの漫画に出てくるような暑苦しいリーダーじゃなく、冷静沈着なリーダーってのかな?そこはお前の良い所じゃん」


出会ったころの陰険な面構えはどこへやら。太陽のような笑顔を浮かべてそんなことを言われた。なんだかくすぐったい。


「……だから、漫画読みすぎだっつの」


俯き加減にぽつりと呟くことしかできなかったのは、照れ隠しなのだろうか。我ながら可愛げのない……


……ちょっと待て。可愛げがあったら私はなんだってんだ?


「ん?なんか言ったか?」


「んあ!?いや、なんでもない!」


自分の気持ちに疑問を抱きながらも桐生と帰路についた。

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