《MUMEI》
魔王
「俺がお前に教えてやることは二つだけだ。
まず一つ…お前達人間にも肌の白い人間、黒い人間といったような人種があるように、魔界に住む俺達にもそれぞれ種族がある。
例えば、見た目はそのまんま狼だが二足歩行するウルフ族。
巨大な体躯と怪力を持つ巨人族。
素早い動きと不老不死に近い肉体を持つヴァンパイア族など…。
この魔界にはそういった奴らが種族同士固まって城を築いたり、狩りをしたりして生活しているわけだ。
そして、集団で生きていく以上、必ず皆を纏め率いていく存在が必要となる。
…ここまで理解できたかな?ボロム君。」

「…。魔族どもにも種族がありそれぞれ固まって生活している。それがどうした?
そんなことは貴様らが部隊を組んでこちらに攻撃をしてきた時点で分かっている。」

「理解が早くて助かるよ。次に…一族を纏め皆を従えるにはそれに見合うだけの力と頭脳が必要だ。力任せに他者を支配するのではなく仲間の共感を得て支持される存在とならなければならない。
ま、お前達人間でもこれは共通して言えることだろうがな。」

「我ら人間と貴様ら魔族が一緒であるかのような言い方をするのはやめろ。醜い化け物の分際で!」

魔王は少しおどける。

「ん?俺はそんな酷い顔をしているか?日常生活に支障がでるほどではないが…いいさ。話を続けよう。」

「そうして、同じ一族の中で能力を認められそれに相応しい戦果を挙げる者に与えられる称号…それを『魔王』と呼ぶ…。」

「何だと?」

デュラムは耳を疑う。

「…言葉が理解できないか?それとも、耳掃除を怠けているのか?…お爺さん。」

「…。」

「要するにだ。『魔王』は魔界の頂点に君臨する者を意味するのではなく、一族を率いる能力を持つ者に与えられる称号というわけだ。
…ちなみに『魔王』は一族の長という意味ではないぞ。一族の長は遥か昔から『大王』と呼ばれていて…まあ、お前達人間は魔界の常識なんぞ知るわけがないだろうが…話を聞いてるか?
…ビロム君?」

デュラムは言葉を絞り出す。

「つまり…魔王と呼ばれる者…魔王と呼ばれるに相応しい力を持つ者は貴様以外にも大勢いるということか?」

魔王は微笑む。

「もちろんだ。星の数ほど…というわけではないがな。種族の数だけ『魔王』がいるってことさ。…どうだ?ワクワクしてきたか?」

デュラムは黙りこむ。

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