《MUMEI》 「詰んだ」視線が痛い。 そんな感覚すら無くなったのはいつくらいだっただろうか。 伊桜とはお隣さんであり、幼なじみであったりして一緒に帰宅することが多いのだが、まるで天使のような(グルルヌのことは天使と認めていない)美しさを醸し出す伊桜に大半はくぎ付けとなり、次に俺を見る。いや睨む。 中には本当に刺してきそうな鋭い殺気をお持ちの方もいらっしゃった。マジで怖い。 今からこんな調子では、相思相愛となったと知れば彼らはどうなるのやら。刺してくるのかな。…………死ななきゃいいけど。 そんなリスク(?)など馬耳東風でもして、さっそく本題に取りかかろう。 グルルヌは言った。彼女と相思相愛のラブラブチュッチューな仲にしてやると。 どうやらグルルヌ自身が伊桜に暗示やら魔法やらを掛けに赴くという実力行使のようだった。 神様の龍みたいに目がチカッと光ったら終ーわりというわけにはいかないらしい。 …………まぁロマンはないが、これで叶うなら多少は目を瞑ろう。 それで肝心の暗示方法なのだが。 対象者と5秒間目と目が合った状態にする。 いや…………あのね、詰んだろ、これ。 誰がこんな蝿を見て5秒間も見つめ続けることができるんだ。 大抵の人間は逃げる。 もしくは戦う。 バッグからのモンスターボールというのは…………さすがにいないか。 「さっきから悶々しているけれど、どうかしたのかい?」 心配そうに、というよりは面白がって?尋ねてくる。 「んーとな、まぁ、なんでもないかなー」 「煮え切らないなー。私と葉月ちゃんの仲じゃないか。どーんと私に甘えてくれていいんだぞ」 そう言いながら俺よりも小さい握り拳を張った胸にポンと軽く叩く。そのおっぱいに甘えたい。 「ふむ…………伊桜さ。もし小人が現れたらどうする?」 小人…………?と反復。 「寝ていたら宿題を小人がやっていた、とでも言うつもりかい?悪いことは言わない。ちゃんと寝なさい」 「違うわ」 確かに最初グルルヌを見た時は寝不足から発生する幻覚だと思ってたけど。 「んーまぁとりあえず、忘れてくれ」 「ほいほーい」 ノリはいいんだけどね。 さて、本当にどうするかね。 両手を交差し、後頭部に当てながら大空を見上げる。 綺麗な夕陽は、大空を橙に、道を茜色に染め上げる。 この時間帯のこの景色が、俺は好きだ。 今考えていることが、ちっぽけなものに思えてくる。忘れたりはしないけどね。 ゾワリ。 そんな景色に茶々を入れるように、背中に悪寒が走った。気持ちが悪い。 「どうやらついに動き始めたようだよ…………悪魔が」 今まで黙っていたグルルヌが胸ポケットから頭を出す。 やはり、この感覚が、そうなのか。 初めて勇者であるという実感が湧いた気がした。 悪寒、というか勘では、結構近い。 ならば、俺は。 導き出される結論は。 逃げるか。 前へ |次へ |
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