《MUMEI》
「どういうことだってばよ」
「ちょ待って。逃げるって言った?ねえ言ったよね?勇者なのに?」
心を読むなと言ったはずだろうが…………。
俺は今忙しい。伊桜に怪しまれずにこの羽虫と目と目を合わせるには、どうしたらいいか、それを思案しなくてはならない。
いいじゃん別に。上条当麻くんだって勝ち目のないときは全力疾走してたよ?まぁ時と場合によるけど。
「君という人間は…………。だがまぁ残念だったようだ」
残念?どういう意味だ、と問いただす前に、俺にも異変を気づいた。
「もう囲まれているよ」
前方にはうちの学校の女子生徒がいた。
まるで道を埋め尽くすように。
10人や20人ではない。
とにかく、多い。
よく見たらクラスメイトの女子までそこにはいた。
なんだ、一体どういうことだ。
目は虚ろで、足はたどたどしい。まるでゾンビのようだ。
「彼女達は悪魔に唆され、意識を奪われてしまったようだ」
グルルヌの解説。
つまり、彼女達は敵だ。
さすがに訝しげになり、立ち止まっている伊桜の手を引っ張り、女子生徒の壁(なんか柔らかそう)とは逆方向を走った。
幸いまだ壁は出来上がっておらず、隙間を縫って脱出を試みる。
「きゃっ」
グイン、と伊桜の手を掴んでいた腕がもげそうになる。
慌てて振り向くと、一人、伊桜の腕を掴むゾン…………もとい、女子生徒がいた。
なんだか幼稚園児の時のおもちゃの奪い合いのような構図になった。
ここで俺が引っ張れば、確実に伊桜は痛がる。
ええい、致し方ない!
女子生徒の腕を手刀で弾く。むしろ俺の手刀が弾かれた。
え、強い。なにこの子!?
どうやら悪魔に憑依されて、身体能力が向上しているらしい。
なら、もやしっ子の俺に敵うわけないわ。
伊桜を掴む手は力強く、伊桜の表情はだんだんと苦痛のものに変わっていく。
許したくなかった。
そして、弾かれた手を、もう一度女子生徒に伸ばす。
何をしても、引き剥がす。
モミ。
気がつけば、女子生徒の胸を鷲掴んでいた。
着痩せするらしく、見た目より大変大きく、柔らかい。
いや、わざとではない。信じてくれ。それでも僕はやってない。…………現在進行形でおっぱい揉みしだいてるけどさ。
一瞬、伊桜の手を掴む力が弱くなった。
今回は俺の手刀を弾くことはなく、簡単に引き剥がすことができた。
「なんなの、一体なんなの?」
疑問を口にしている。俺に問いているというよりは、ポロポロと思っていることが漏れだしているようだ。
これは一体…………どういうことだってばよ。

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