《MUMEI》 唯一無二の存在「…て!……手伝って…くだ…さ…ぃ」 我慢できなかった。 このまま綾女の項を見ていたら、下半身が破裂しそうだった。 綾女は振り返って、目を丸くしながら僕を見ていたけど、 「いいよ」 と言った。 綾女が僕を選んでくれた! こんなことが、現実になるなんて思わなかった。 妄想を膨らますことしかできないと思ってたのに…。 矢野さんの言った通り、綾女は僕といて幸せだって感じてたんだ。 “唯一無二の存在” 綾女にとっても僕は、掛け替えのない存在…。 僕たちの関係は壊れてるどころか、もっと先をいってたんだ。 僕はクローゼットから、旅行鞄を取り出した。 「なにそれ…」 綾女が怪訝な顔をした。 「てかさ…鼻、拭いたら?」 綾女に言われて手で鼻を拭うと、手に血が付いた。 「鼻血出すし、なんか目も血走ってるし気持ち悪いんだけど」 「ごっ、ごめん…」 やっと綾女と結ばれるっていうのに、鼻血なんか出して、気持ち悪いなんて言われて…悲しくて情けなくて、涙が出そうになる。 「で、これなに?」 ティッシュで鼻を拭く僕を尻目に、綾女は鞄のチャックを開けた。 一瞬、綾女の小さな悲鳴が聞こえた気がした。 「こんなのまで集めてたの?」 鞄の中身を見ながら言う綾女の表情は、少し引きつっているようにも見えた。 「昔さ、佐伯があんたを馬鹿にする度に庇ってきたけどさぁ…あれ、大きなお世話だったんだね…だって女装しながらあんなの観てこんなものまで集めちゃって……あ、これさっき見たやつと一緒だ」 そう言って綾女は、鞄の中からバラ鞭を取り出した。 「…これもだ……あ、これも…」 鞄の中身がひとつひとつ出されていく度に、脈が上がって苦しくなっていく。 僕の集めた道具を手に取っているということは、僕の秘密に触れてるってことで… それはもう、僕と綾女がひとつになれたような感覚だった。 前へ |次へ |
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