《MUMEI》

翌日、夕方の駅前
大学の帰り道、その前を通りかかった三浦
そこに相も変わらず佇むばかりの佐藤の姿を見つける
やれやれ、と三浦は肩を落とすと佐藤の元へ
「……今日は、いつまで待つ気だ?」
相も変わらす出てくる人を眺めるばかりの佐藤
横に立った三浦へと僅かに視線を向け、そしてすぐ前を見据える
「……後、もう一本だけ」
電車を待ってから帰る、との佐藤へ
三浦はまた肩を落とすといったんその場を離れ、近く在った自販機へと向かった
ミルクココアとコーヒーを飼いまた戻れば
同時にもう一本電車が着き、ヒトが降り始める
どうやらこの電車にも目的の人物は乗っていなかったのか
佐藤は顔を伏せそこに立ち尽くしていた
「……わかってる。居る訳、ないって」
また一人言に呟いて
僅かに覗き込み見えたその表情は今までに見た事の無いほどに苦く
三浦は思わず佐藤の頭を腕で抱き込んでやっていた
「……士郎、君?」
いきなりのソレに佐藤が驚いたかのように顔を上げる
どうしたのかを問うてくる佐藤へ
「……帰るか」
それだけを短く伝え、佐藤の手を引き歩き始めた
佐藤の、脚取りが重い
やはりまだ駅の方が気に掛るのか、何度も振り返る
「明日、付き合ってやるから」
佐藤の頭を撫でてやりながらそう言ってやれば頷いて
改めて二人、連れ立って歩く
相も変わらず交わす言葉は少なく
賑やかな街中に有っても、互いの間ばかり静かだった
「……お腹、減った」
ぼそり呟かれたそれに三浦は携帯の時計を見やる
現在、PM7:00
何か食べて帰ろうかとあたりを見回していると
「あれ、三浦?」
聞き馴染んだ声が聞こえ、三浦は振り返る
大学の友人が手をひらりと振りながら、何をしているのかと駆け寄ってきた
「何?あんた達も今からご飯?なら、一緒に食べない?」
との行き成りな申し出が
三浦と佐藤は行き成りのそれに顔を見合わせ
だが断る理由も特に思いつかず、結局相手に付き合う事に
そのまま三人連れ立って向かったのは近所に有るファミレス
そこで各々好きなメニューと、長居するつもりで居るのかドリンクバーを注文
早々に飲み物を取りに向かった相手が戻ってくるなり
「ね、アンタ達って付き合ってんの?」
と、唐突すぎる質問
あまりに突飛過ぎるそれに三浦は瞬間絶句
佐藤に至っては何の事かが分かっていない様で、首を傾げてしまっている
「何?違うの?なんか良い雰囲気だったからそう思ったんだけど」
ごめんごめんと嗤いながら相手は取ってきたコーヒーを飲み始めていた
傍から見て、そういう風に見えているのだろうか?
横に座る佐藤の横顔をチラリ見ながらついそんな事を考えていると
注文したメニューが運ばれてきた
話も程々に、各々が食べ始める
「……ピーマン」
頼んだものの中にそれを見つけ、佐藤の手が停まる
嫌いだと言っていたそれを目の前に、どうしたものかと難し気な表情の佐藤
それに気付いた三浦が佐藤の皿からピーマンを攫っていく
驚いた様に三浦を見上げてくる佐藤へ
三浦は何を言うこともせず、僅かに肩を揺らすと佐藤の頭へと手を置いた
「なんだか、アンタ達って平和ねぇ」
「は?」
相手からのその言葉に何の事かとつい聞き返してしまう三浦
相手はなぜか楽し気に笑みを浮かべて見せながら
「アンタ、自分で気付いてない?この子と居る時のアンタって凄く柔らかい表情してる」
いつもは不愛想なのに、と相手
指摘される今の瞬間まで意識すらしていなかった
佐藤と居る時の自身があまりにも自然すぎて、その時だけはそれが普通なのだから
「三浦ってば、顔赤いよ〜」
指摘され、三浦は喧しいを一言返すと改めて食べ始める
その三浦の様に相手は肩を揺らし、佐藤の耳元へと唇を寄せると
「あいつ、色々と不器用だから。あいつの子と、よろしくね」
「え?」
「あいつ、あなたの事本当に大事みたいだから。ね」
三浦に聞こえない様小声でのソレに、佐藤は僅かに小首を傾げて見せる
大事、とは一体何なのだろうか、と
「……士郎君の大事は、私?」
分からない、と独り言に呟いてしまえば相手は僅かに肩を揺らし
佐藤の頭へと手を置いていた
「たぶん、そうだよ。じゃないとあいつ、一緒に居たりしないと思うし」

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