《MUMEI》 無造作に地べたに転がった相手の身体 その弾みで身体を強く打ち付けたのか、動けずに蹲っていた 呻く声を上げるその様を少女は感情の籠らない表情で暫く眺め、そして頷く 「……ごめんなさい。貴方達には悪いけれど、死んでもらうから」 聞いていて全身が凍り付いてしまいそうな程に冷酷な声色 淡々と作業の様に事を進めていく少女を見、山雀はたまに分からなくなる 何がこの少女をこれ程までに駆り立てるのか 「何?」 つい凝視してしまっていた山雀に気付き、少女は首を傾げて見せる そう。その実、この少女は何も気付いてはいないのかもしれない 親鳥が孵化した後、この世界がどうなってしまうのかを 「……何か、気に掛るの?山雀」 表情に出てしまっていたのか、少女が顔を覗き込んでくる この少女はヒトの感情の変化に敏い 山雀が今それを深く考え込んでしまえばこの少女は容易にそれを感じ取るだろう 今する必要のない心配は成るべくさせるべきではない、と 山雀は努めて平静を装い、また餌を探してくる、と飛んだ 不自然な、態度だったかもしれない 自分はつくづく立ち回るのが下手だ、と自嘲気味に肩を揺らす 「相変わらず、つまんなさそうな顔してるね」 近場の木に停まり、暫く休んでいると不意に聞こえてくる声 振り向かずとも誰の声かが知れ、山雀は背後から見ても分かりやす過ぎる程大きくため息を吐いた 「……この先どうなるか分かっていて、それでも君は雛を孵化させるために動くんだ」 「それが、あいつの望みだからな」 「……なんで、君がそこまでするの?」 変なの、と表情を顰めたであろうことが声の様子で知れた そこで漸く山雀は振り返り、声の主・朱鷺へと向いて直る 「……君は、不思議。ほかの鳥ほど自由ではなく、人程、縛られてはいない」 どうしてなのかを問うてくる朱鷺へ 山雀はさも面倒だと言わんばかりに溜息を吐くと 「……あれは、俺の親鳥だからな」 「親鳥?あの子が?」 山雀の告げたそれに朱鷺が明らかに驚いた様な表情をして見せる こんなヒトらしい表情もするのかと山雀は肩を揺らしながら 「まぁ、あいつは覚えてないだろうがな」 朱鷺へは嘲笑を浮かべて見せた 「……君は(子)なの?」 驚いた様子で表情を強張らせる朱鷺 だがすぐにニヤリと口元を歪ませながら 「なら君も殺してあげるよ。全部、殺せばそれで何もかも終わるんだから」 さも良案だと言わんばかりに声を上げ嗤う事を始めた 自身も誰かの(子)なのだろうに その事を忘れ、何故すべてを殺そうなどと言い始めたのか その真意が山雀にはどうにも理解できない 「……それは、その子の親が、咎人だから」 怪訝な表情を隠せずにいた山雀 その背後から聞こえてきたのは少女の声で 向いて直ってみれば 「……その子は、ヒトと鳥の合いの子。合いの子に、安息の場所はない」 合いの子たちが寄り添い暮らす、あの集落の中に有ってもなお 皆、いつ殺されてしまうのだろうかと怯え暮らしている 「……山雀。今は、退いて」 「なんで?」 餌が必要なのではないのか、との山雀へ 少女はだが首を緩く横へ降り、嫌々をして見せる そうするばかりで何を言うこともせず、まるでn容量を得ない だが山雀はそれ以上追及してやることはせず、従ってやる事に 「嫌な目をするね。蔑む様な、嫌な目だ」 「蔑んでなんていない。唯、哀れだと思っただけ」 背に向けられた相手からの言の葉に、少女は振り返る事もせず 珍しく感情の籠ったそれを相手へと返していた 「……(鳥)の癖に、何言ってんの?もともとは、お前達が現れたのが悪いんじゃないか!」 「……そうかも、しれないわね」 何が悪いのかを問い質す事もせず、少女はそれだけを返すとその場を後に 山雀も踵を返すとその後に続く 「……親鳥が、孵化したわ」 帰路を進みながら、少女からの声 望んでいたはずのソレに、だがなぜか声は低く沈んでいて 俯いている様にも見えるその様に、山雀はどうしたのかを問うた 「……見れば、分かるわ」 それ以上何を言う事もしない少女の様に山雀は僅かに怪訝な顔 だが詳しく問い質してやる事はせず、そのまま付いて歩いていく 前へ |次へ |
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