《MUMEI》
同じ笑み
「いじめられるのが好きなら、もっと早く言ってくれたらよかったのに」

小さく笑いながら言う綾女を見て、綾女も佐伯と同じ笑い方するようになったんだな、と思う。



──俺ら、仲良しだもんな?茉希ちゃん



こんなときに、思い出したくない奴の顔が出てくるなんて…。
綾女とアイツを一緒にするなんて…。

「もっと早く言ってくれてたら佐伯なんかと関わらないで済んだのに…」

俯きながら言う綾女が、どんな表情で言ったのかわからなかったけど、声が暗くなったように感じた。

「ねぇ、どれがいいの?手伝ってあげるから選んでよ」

挑発的な目で僕に言う綾女の声は、いつもの澄んだ声で、それは漠然とした不安に飲み込まれそうになった僕を、引き戻してくれたみたいで……僕は綾女を、全身で感じて安心したくなった。

「…あ、あの……僕…」

しゃがんでいる綾女と目線を合わせようと思ってしゃがんだのに、いざ視線が交わると耐えられなくて、僕は目を反らした。


抱き締めたい、綾女の温もりを感じたい。
僕たちの関係は特別だって、そう肌で感じたいだけなのに…。綾女と抱き合うのを何度も想像して、シミュレーションまでしてきたのに、いざそのときになったら僕の体は、石のように硬くなって思うように動かない。
そればかりか、全身が熱くなって口の中もカラカラで、上手く息ができなくなった。



そうだ……。

手錠…

僕は…これを使いたかったんだ…。



そう思い出して手錠を取ると、綾女が呆れたように息を吐いた。

「ねぇ…少し落ち着いたら?さっきから息も荒いし気持ち悪いんだって」

「ごっ…ごめ…」

「その手錠使って欲しいんだ?でもさ、それ使ったら動けなくなるでしょ?だからダメ」

そう言って綾女が立ち上がった。
白くて細い脚が、目の前に立ちはだかる。

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