《MUMEI》
褒美
その直後、デュラムは背中に衝撃と腹部に灼熱の痛みを感じた。

「ぐ…!?」

ゆっくりと自身の腹部を見下ろす。

デュラムの腹部は血にまみれた剣で貫かれていた。

「何だ…?これは…」

顔を上げ背後を確認する。

目の前には首を無くした魔王ゾラの体が、両手をダラリとぶら下げた状態で立ち尽くしていた。

「馬鹿な…。」

デュラムは口から血を流し呟く。

ゾラの体はゆったりとした足取りでデュラムが衝撃で手放してしまった生首の所まで歩く。

そして、拾った首を胸の位置で構えデュラムの方へ向き直る。

「…簡単な話だ。首が喋り、瞬きし、息をする。これだけの事ができるのに運動能力の大部分を担った胴体が何の動作も出来ない訳がない。

お前は俺が首だけでも生きていられると分かった時点で俺の体を探し、切り刻むなりすり潰すなりしなければならなかったのだ。

ま、そこは俺が話上手だったので難しかっただろうが…フフ。」

「…完全な不意討ちで俺に致命傷を与えたのがそんなに嬉しいか?この薄汚いゲスゾンビ野郎が…!」

「言ってくれる。…だが、薄汚いは間違いだ。
なぜならこの俺の肉体は人間の死体を利用し動かしているが、腐っている訳でもカビが生えている訳でもない。きちんと防腐処理がしてあるのさ。ゾンビ=不衛生はお前達人間の
凝り固まった先入観以外の何物でもない。

…俺は何を話しているのやら。」

「…。」

「ん?どうした?…もう死ぬのか?」

気が付くとデュラムはゾラを前にうつ伏せに倒れ込んでいた。

激痛と出血により意識が朦朧としている。

「…そうか。では、最後に…俺の首を切断するほどの実力を示したお前にささやかな褒美をやろう。その目を見開いて脳裏に焼き付けるがいい。…っと首が邪魔だな。腰に吊っておこう。」

ゾラは首を自身の腰に括りつける。

「これでよし。さて、両手が自由になったところで…。理想としてはカッコ良く指パッチンで決めたいところだが…まだ練習中なんでね。ここはオーソドックスに…」

パンパン!

ゾラは掌を打ち合わせる。

「我が忠実なる兵達よ!今一度姿を現し愚かなる人間共を殲滅せよ!」

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