《MUMEI》
業火の焔
「ずぞあ゙ぢぃ…じぬ゙ぅ…」

現実は甘くなかった。まさか引っ越しというのがこれほどまでに体力がいる作業だったとは思いもしなかった。汗だくの体でシャツまでじんわりと貼り付いている。

「東京…こんな暑いのかよ…クーラー壊れてるとかマジ詰んでんぞこれ…はぁ…あづい…」

悪徳不動産会社め、あとで電話して直ぐにでもクーラーを直してもらうからな

「あ…一応隣部屋には挨拶に行っておくか…上は…いっか別に…よっと…」

暑くてダルダルな体を立たせる、この灼熱の我が城からの離脱を計るのだ。挨拶なぞついででしかないわ。

…………………。

ピンポーン

「すいませーん」

ガチャ

「はい……。」

「あ、どうも。俺今日隣に越してきた佐々木拓真って……ファァ!」
見るからにオデブで油ギッシュな中年男性が白シャツにトランクス姿で現れる。見るからに気持ち悪いぞこの人…。
しかし俺がファァ!っと唸ったのは隣人の容姿にではない。

「このポスター機動ロボットカムダンのエロ・シーン中尉じゃないですかぁあ!ふほっ!俺このチンポみてぇな髪型のキャラドストライクなんですよ!」

「えっ、わかるの?君もしかしてオタク?良かったら上がってよ!もっと色んなのあるから!」

「ふはっ♪マジすか?お邪魔シマンモス!」

玄関口からでも奥のオタクアイテムが覗き見える。さっそくウマの合う友達が出来そうだ。歳は30代後半だろうか?
いやたとえオッサンでもぼっちよりよりはマシだぁ!

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