《MUMEI》
彼女の心
”汚い“












…確かに、綾女はそう言った。
小さな声だったけど…。


”気持ち悪い“とか”汚い“とか…今まで綾女は、そんなこと言わなかった。




──そんなことないよ、茉希は強いもん、格好いいよ


──大丈夫だよ、しょうがないじゃん、ずっと我慢してたんだもん




僕の大切な思い出…。
子供の頃、綾女が言ってくれた言葉が、頭の中で囁いた。
綾女はいつも優しくて、いつも僕の傍にいてくれた。
”気持ち悪い“とか”汚い“って言葉も、綾女だけは、いつも否定してくれてた。
僕が泣くと、頭を撫でてくれてた。


洗面所のタンスからタオルを取り出した僕は、それを抱き締めた。
これから綾女の体を、包もうとしているタオルを抱き締めると、間接的にだけど、綾女を抱き締めている気分になれた。


今の綾女は、昔とは別人だ…。
昔の綾女だったら、辛いときに優しくしてくれたのに…。
けど、僕に蝋を垂らす綾女は、すごく楽しそうだった。


昔とは別人だけど…今の綾女が、本当の綾女なのかな…?
”気持ち悪い“とか”汚い“って言葉も…、綾女の本心…?
本当は昔から、そう思っていたの?


だとしたら…、この先なんて…ないのかな…。
同じベッドで一緒に眠るなんて…、無理なのかな…。
それなら…どうして泊まっていくなんて……


考えれば考える程、綾女の考えていることがわかんなくなって、不安になって、悲しくなって…僕は涙が出てきた。









嫌だよ…。
今までが全部、嘘だったみたいにしないで…。
僕を安心させてよ…
昔みたいに、優しくして。
”大丈夫だよ“って笑ってよ…。
僕を独りにしないでよ…。






「そのタオルは使わないからね」

背後から急に声がして、驚いて振り向くと、綾女が立っていた。

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