《MUMEI》 いつもの言葉「遅いと思って来てみたら…何やってんの?」 そう言って綾女は、開いたままのタンスからタオルを取り出した。 「痛かったんだ?」 僕を見て綾女が笑った。 「…ぁ……」 僕の中にある不安を全て、綾女に吐き出したかったのに、やっぱり声にならなくなる。 「ほんと、すぐ泣くよね」 綾女が呆れたように言った。 「…ぁ…の……」 「もういいよ、早くシャワー浴びたいから出て行って」 「……あ、あの…」 綾女が大きく溜め息を吐いた。 「なに?」 「…あの…さ…」 ”どうして泊まっていくの?“ そう。 ただ、そう聞くだけ。 別に変な質問じゃない、ここは僕の家なんだから、聞く権利だってあるし、普通の、ただの会話だ。 「…あの……」 でも、どうしても言葉にならない。 喉が塞がってしまったみたいに、声が出なくなる。 昔、僕は綾女と、どうやって話していたっけ…? 「…ねぇ…もういい?」 綾女が溜め息混じりに言うから、僕はいつもみたいに結局、 「う、うん…ごめん…」 そう返した。 洗面所を出て部屋のドアを開けると、洗面所のドアが閉まる音がした。 あんなに悲しかったのに、こんな近い距離で綾女が裸になっている、そう考えたら僕の下半身はまた反応した。 綾女は昔とは別人になっちゃったけど、でも…鞭を持って脚を組む姿も、様になってた。 見下したように僕を見るあの目も…。 綾女が座っていた場所を、そっと撫でると、さっきの綾女の姿が鮮明に甦った。 いつからか笑わなくなってたのに、僕を虐めてから綾女は、笑うようになった。 さっきだって、泣いてる僕を見て笑ってた。 ……そうだ。 僕のことを本当に気持ち悪いとか、汚いなんて思ってたら、そもそもこんなことしない。 泊まってなんかいかない。 ”唯一無二の存在“さっき、そう確信したばかりなのに、なんで僕は疑ってしまったんだろう。 前へ |次へ |
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