《MUMEI》

「……すいません。放送部ここですよね。」

今まで見に来てた女子とは明らかに違う。一見物静かそうだがハキハキした話し方から聡明さが滲み出ていた。背筋がしゃんと伸びていて小柄な体躯ながら女々しさは感じられない。顔はまだ可愛いと言っても良さそうだが、これを本人に言ったらひっぱたかれるかもしれない。


「男だー!」

東屋もいい加減乙矢達目当ての女子にうんざりしてたようで目を爛々と輝かせて彼に寄ってゆく。

「一応去年の作品とかあるけど見る?」

再生ボタンに手をかけた。


「結構です、もう入部はここに決めてあるんで。入部届け貰いに来ました。」

……あんびりーばぼぅ。一人捕まえた。
即行で入部届け用紙を渡す。彼はペン字検定でも持ってるのか実に流麗に名前を書いた。


神部 桜介

さくらすけ?いや、おうすけ だな。


「かんべ さくらすけ。宜しくな。」

七生は真面目にさくら読んでるし。


「……かんべ おうすけ ですけど。」

こっちも真面目に答えてるし。乙矢に少し似た冷たいかんじ。心開いてないだけかな。本当は明るかったりして?



「……部員集まるかな」

つい、ぽつりと独り言を言ってしまう。

「二人で居るんだから学校の心配は持ち込むなよ。」

別に勉強しに俺の部屋に来てるからいいじゃん。今日は家族居るから触るの禁止だし。

「部長だから部の存続くらい気にかける」

高遠が後輩を引っ張ってけるとは思えない。しっかりとした団結力のある一年に育てるしか放送部の未来はないのだ。


「二郎は俺だけ心配してればいいの!部員は俺が探してくるから。」

七生が右手を握ってきた。目茶苦茶なこと言ってるし、触ってきたけど、俺のこと想っているみたいだ。右手くらいならいいか。
右手の熱が頭に浸透したのか部員のこと、七生だったら本当に何とかしてしまいそうに思えた。






二週間の入部期間、神部桜介一名しか入部出来なかったものの、その後、彼は友人を一名連れてきた。更に七生の強引な勧誘により二名部員を獲得することが出来た。佐藤と藤田という藤コンビで覚えた。

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