《MUMEI》 3翌日、寝から覚めてみれば、見える景色が一変していた 親鳥が取り込まれた寄生木を除き、そのほかの木々は皆枯れてしまっていた 明らかに異常なその様に、山雀は停まっていた木から降りる事を始める 「いい、景色だね。僕、凄く好きだ」 降下する最中、枝に腰かけていた人影から掛けられた声 山雀は止まり、その声の主と対峙する 「……お前、暇なのか?」 度々絡んでくるその相手に、つい呆れた様な表情を向けてやれば 相手はだが口元に僅かに笑みを浮かべて見せる 「暇といえば、暇かもね。親鳥があんな風になっちゃって」 「あれがお前らの理想とする形じゃないのか?」 てっきりそうだとばかり思っていた、と山雀は意外そうな表情 相手はあからさまに不機嫌そうな顔をして返すと、枝をけりつけふわり飛んだ 「あの親鳥も雛も、出来損ないだよ。あんなのいらないから」 「また、新しく作るとでも?」 山雀のその指摘が図星だったのか 相手は僅かに肩を竦めて見せながら、だが口元には薄く笑みを浮かべて見せる 「……だってさ、その為の材料なら掃いて捨てるほどあるんだから。大丈夫だよ」 満面の笑みを浮かべて見せたかと思えば相手はその場を後に 暫く其処に立ち尽くしていた山雀、漸く動き出した直後 「……あいつ、人間を使うつもりなのね」 少女の声が聞こえてきた やはり僅かにでも罪悪感はある様で 表情を顰めてしまう少女へ、山雀は僅かに肩を揺らすと 「お前が望むなら、あいつの事止めてやるけど?」 どうする?と続けてやる さて、どう返事が帰ってくるか 元より人間にさほど思い入れがあるわけでは双方ない 助けてやる義理などない、筈なのだが 「……山雀。行って」 「あれを止めにか?」 「そう。お願い」 少女からの懇願に、山雀は僅かに肩を揺らすとふわり飛んだ だが彼女の意に従うのが自身の役目だと山雀は後を追った 手近な人里へと降り立ち、そこで山雀が見たものは 周囲一体に広がる肢体の山だった 地獄と表現して行き過ぎでない山上に、山雀は派手に舌を打っていた 「ひっでぇ様だな」 背後からの声に振り返ってみれば、其処に居たのは啄木鳥 広がる惨状を目の前に、その表情は苦々しいそれだ 「で?お前はこれからどうするつもりだ?山雀」 啄木鳥からのそれに、山雀は何を返すでもなく 僅かに溜息を着くばかりだった 「さすがのお前も、溜息もんか?」 啄木鳥のそれに山雀は何を返すでもなく、脚元を踏みつけふわり浮く 同時に山雀はその姿を鳥のソレへと変えていた そのまま飛び始める山雀 眼下には先に見た光景と同じようなそれが広がっている あの子供は何がしたいのだろうか? その姿を探しながら山雀はふとそんな事を考える 確か、ヒトと鳥の合いの子だと少女は言っていた そんな半端者に、この世界は生きにくいのだろうか? 「……とっ捕まえて、全部吐かすか」 あれこれ考え込むよりはその方が手っ取り早い、と 山雀は改めて探すことを始める 暫く飛んで探した後、その姿は意外にも早く見つけられた とある寄生木の頂 其処から人里の様を厭らしい笑みを浮かべ眺め見ている 「……僕を、止める?」 山雀が何をしに来たのか分かっているのか 出来るのならばやってみろ、と言わんばかりの嘲笑を今度は浮かべて見せる 安い、挑発 それに乗ってやる程、山雀も馬鹿ではない わずかに肩を揺らすと素早く腰を落とし朱鷺の視界から消える 瞬間、その姿を見失い視線を泳がせるそのすきを借り背後へ その身体を、腕を後ろ手に掴み上げ拘束してやった 「……君達は、どうしたいの?」 僅かに首のみを振り向かせながら尋ねてくるそれに 山雀はやはり答える事はしない それを朱鷺はどう捉えたのか 分かる筈もないが、相いれないという事は相手もどうやら再確認した様だった 「……これからが、楽しみだよ」 口元に厭らしい笑みを浮かべ、朱鷺はその場を後に その後ろ姿を山雀は睨みつけ だがその後を追う事はせず、山雀は深く溜息をついてしまうと苛立ちに髪を掻き乱した 「……苛立ってんな。珍し」 啄木鳥からのソレに山雀は更に溜息を一つ 前へ |次へ |
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