《MUMEI》
今好きな人。
結局、説教だけで残りの時間を全て使いきってしまいそうなので、注意だけに絞った。
文化室の中央には長机が2つくっつけてあり、5人が各々座っている。
現在自分で用意した資料を眺め、ノートパソコンのキーボードを叩き、記事を作っている。
正面には天草が本を読んでおり、時々「ほむ………わぁ………」とか呟いている。あんぐり開けた口を閉じろ。
その隣には風影がいて、向かい側の神名と将棋をたしなんでいる。
神名が打つ度に目を丸くし、頭をガシガシ掻きながら将棋盤と睨めっこしている。風影が劣勢なのは一目瞭然だった。
天草の逆側の隣には逆間が安定に勉強をしている。僕には及ばないが、逆間も勉強ができる。だが、今思うと頭が良いのと勉強ができるのとは、少し違うらしい。
よし、今日のノルマは達成、と。
窓から空を見上げると、もうそろそろ暗くなってきてもおかしくなかった。
ボクがノートパソコンを閉じる音と、天草が読んでいる本を閉じる音が重なった。表紙を見ると、『彼女はそれでも隠し続ける』という今話題の恋愛小説だった。ちゃんと内容を理解しているのだろうか。
「そういえばさー」
ふと、思い付いたような表情で天草は全員に聞こえるように話しかける。全員の手は止まり、天草の方に耳を傾けた。
「みんなってさ、今好きな人いる?」


「………………………………………ッ!!」


神名と逆間が同時に、そして過剰過ぎるほどにビクッと
体を震わせた。
なんだ、一体どうしたと言うんだ。
「ぶふっ、どうした二人とも。くくく………」
風影は吹き出し、お腹を抱えながら笑いを堪え………きれていない。
「「い、いいいや!な、何でもない何でもっっっ!!!」」
二人はダンッと立ち上がりながらキレイにハモり、二人は互いの目と目が合う。
二秒ほど経っただろうか。
「か…………かか、薫く………っ!」
「ーーーーあっ!」
途端に逆間の顔がボンッ!!と効果音が聞こえてきそうなくらい一気に真っ赤に染まった。
「ミ、ミクちゃん………!今のは違っ」
「わ、私っ、先に帰るねっ!!」
広げていた勉強道具一式を素早く鞄に押し込み、嵐のように走り去ってしまった。
まるで逃げるよう………いや、そのものだった。
それに対して神名は顔を真っ赤にし、「し、しまった………」と呟きながら席に座った。
…………一体どうしたと言うんだ。
「あははは!流石、期待通りの反応してくれるね!」
親指をグッと突き上げてひたすら楽しそうな元凶の天草。
逆間は戻ってはこなさそうだった。




ボクはこの時、逆間が人の心を読めることをまだ知らない。

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