《MUMEI》

「水面下でコソコソ動くのが得意なのに、俺のことを俺自身に聞くとは中々切羽詰まってるな。」

先程の追い詰められてる発言に怒りを示したのと同様に表情に出るかと思ったが、今回の発言にはピクリとも顔を歪ませなかった。

流石に社長。会話で攻めようにも場数が違うのかもしれない。

「私としても本当は聞きたくなかった事だし、今日偶然此処に来てくれなきゃ一生聞いていなかっただろう。」

…やけに素直だな。

視線だけで矢吹が真剣そのものなのが伝わってくる。

「聞きたいのは詳しく言えば君の事ではないんだ。」

その言葉で俺の脳内は直ぐ様色々な可能性を浮かべた。家族のことか、ゲームの事か、現実での事か。

思わず視線を下げて、ぼぅっと考えてしまった。

「何、嫌な質問でも無いよ。私が気になるのは人ではない。君の人工知能…AIの事さ。」

想像していた事とは全くかけ離れていたので、思わず間の抜けた声を出しそうになり、慌てて唾を呑み込む。

「アイが何かしたのか?」

恐らく現在俺がログアウトしているので、AIの、いわゆる電脳世界の方で休んでいるであろうアイが、何か俺の為に動いてくれたのだろうか。

少しだけ気弱な声でそう呟くと、矢吹は心底苛ついたような顔を隠す気も無い様に見せてきた。

「その言い方が先ずおかしい事に気が付かないのかカケル君。」

言葉の意味と、自分に何を気付かせようとしているのかが判らず応答せずにいると、矢吹はここ一番の溜め息を漏らした。


「君は人工知能をまるで人の様に語るが、あれはプログラムだ。性格や行動も全てデータに基づいている筈なんだよ。」

そう言われて、ふとMHOでのアイを思い出す。


うん。納得しかねるな。

「少なくとも俺の知ってる人工知能のアイは、ただの俺の友達で、ただのちっこい可愛い少女だけどなぁ。」

俺が小首を若干傾げながらそう言うと、矢吹は座っていた椅子を少しだけくるりと揺らし始め、何かを摸索し始めた。

何かを嫌な予感がするのは気のせいではないだろう。

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