《MUMEI》
嘘は憑けない。
「好きな人………か」
帰り道、一人呟く。
ボクは今まで、恋らしい恋はしてこなかった。
興味がないわけではない。
言い訳にしかならないことはわかってはいるが、ボクにはとても恋をしていられる程の暇はなかった。
家では両親の顔を伺い、両親が期待するような成績を得る。
姉弟に対しても、上辺だけで、家族にとって良い息子や弟を演じ続けている。
これがかなり、疲れる。
ストレスも溜まる。
あの四人といると、そんなことから解放される。
あいつらは良いやつだ。親友と言ってもいい。
ボクはあいつらといると、とても楽しい。
楽しかったんだ。
最近になって、気づかされた。
一度壊れた時、いずれ別れてしまう時がある、遅いか早いかの違いだ、と結論を出した。
胸にぽっかりと空いた穴を理屈で無理矢理埋め込んだ。
それが今、完全に元通りとは言えないが、同じ形にはまりかけている。
そうして、気づかされた。
ボクにとって、あいつらの存在の大きさを。
大切にしたい。
守りたい。
風影が二年間剣道に全力を注いでいたのと同じく、ボクは勉強に没頭していた。
今思えば、この時を待っていたのかもしれない。
ボクがもつ知識で、みんなを小鳥遊晶から守りたい。
後悔はもう沢山だ。
守る。絶対に。
ボクはあいつらが、《好き》だから。



…………本当に、そう思うのか…………



「…………っ」
頭の中に、エコーするように、ボクの声質に近い、声が聞こえた。
まさか、これは


…………それが、本音………?冗談だろう…………


これが、現象………?
頭を抱え、別の所に意識を持っていこうとするが、うまくいかない。
この声が、頭から離れない。


…………無理するな…………
…………わかっているんだ…………
…………お前の本音を…………



落ち着け。落ち着いて考えろ。
もしかしたら近くに小鳥遊晶が潜んでいるかもしれない。
捜し出すんだ………。
そして、この現象を終わらせるんだ。


…………何故避ける…………?
…………あの四人以外にもいるだろう…………?
…………大切な人が…………


黙れ。
ボクの何を知っている。
そんな人は、いない。


…………自分にも嘘を憑くつもりなのか…………?
…………それはダメだ…………
…………ルール違反だ…………


「ボクは嘘なんか、憑いてなんかいないっ!!」
違う
これは、違う
やめろ
やめてくれ


…………始まる…………
…………お前にも…………


「なんだと…………?」


…………守れるのか…………?
…………四人を…………大切な人を…………自分自身を…………


「やめろ!!どこにいる!?」


…………意識した今…………もう、逃げることはできない…………


「逃げ…………る…………?」
ゾワリ、と全身に悪寒が走った。
その悪寒は全身を漂い続け、消えることなく、留まる。


…………お前はもう…………


パッと振り向くが、誰もいない。
だが、背後から喉仏に刃を突き付けられている感覚は、まったく拭えない。


…………自分に嘘は憑けない…………


その言葉はボクの心を深く、深く抉った。

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