《MUMEI》

伊藤さんは切なそうに、心配そうな表情で
俺を見つめてくる。

「……して、…して欲しい…」




すると伊藤さんは凄く嬉しそうな、泣きそうな表情に変わった。


「ゆうちゃん!有難う…、優しくすっからな」






――そしてまた唇が近づいてきて…俺は眼を瞑った。





プルルルルル…プルルルルル…
プルルルルル……





「…電話…鳴ってる…」





俺は眼を開け、伊藤さんを見る。




「良いよ…あんなん…無視だ……」





再び伊藤さんの唇が降りてこようとして、俺は眼を瞑った…





ピンポーン!


ピンポーン!
ピンポーン!

プルルルルル…プルルルルル…



「はあ――あ!なんなんだいったい!!
…… 」


伊藤さんはガッと腕を突っ張り、厳しい表情のままドアの向こうを見据えている。

「どっちも…鳴りやまない… 」



けたたましく宅電とドアフォンが鳴りっぱなしで……



「クソッ!!誰だ一体!!」




伊藤さんはベッドから降り、ボクサーとシャツをサッと着込む。




「チクショウ…、いーとこ邪魔しやがって!唸り伏せてやる!」


伊藤さんはすたすたと行ってしまった。

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