《MUMEI》

俺も負けないくらい小さい声でつぶやいた。

「‥‥え、なに」

「どっかの宗教だとさ、女の人って死んだらみんな神様の嫁さんになるんだと」

「うん」

「だからさ、神様がお前を早く嫁さんにしたかったんじゃねぇの」



「‥‥何ソレ」

くすくす、笑いながら振り向く恋人。大きな目の中にいっぱい溜まった水が、差し込んできた朝日を反射してきれいだった。

「耽美すぎでしょー。あつくんたらポエマー」

けらけら笑いながら抱きついてくる、声も口調もいつも通り。
強いな、お前は。
だけど笑い声はどこか悲痛で痛々しかった。
なのに俺は、ただ賢しい言葉を並べて無理矢理自分を納得させるしかできない弱者だ。
お前に何も言ってやることができない。
壊れ物をあつかうように優しく抱きしめた。寝癖のついた柔らかい髪に鼻をうずめる、甘いシャンプーの香りがした。

差し込む朝日、ちらちら舞う粉塵。二人がいれば世界は完璧なものに思えた9日目。濡れる俺の胸元と、濡れる恋人の髪には、お互い気付かないふりをした。

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