《MUMEI》

啄木鳥のいう通り、苛立ってしまっている
原因は分かり切っているのにも関わらず、今打つ手がないという事に
「おい、山雀!おまえ、どこ行くつもりだ!?」
怒鳴る啄木鳥の声に振り返る事もせず、山雀は踵を返す
飛んで上ったその先に鳥の群れを見つけ、山雀はそのままその様を眺め見る
この鳥たちはどこで羽を休めるのだろうか、と
「隙だらけよ。山雀」
声が聞こえ、背に刃物の様な鋭利な何かが宛がわれた
それが何か、そして誰かを山雀は瞬間理解し、肩を揺らす
「俺は、何かミスったか?」
宛がわれた刃物を自身への叱責と捉え
山雀は浮かべていた笑みを苦笑へと変える
「別に。唯、ぼんやりしてたから」
やってみただけだ、と少女
表情は、普段通り。だが何かしら思うところがあるのだろう
宛がっていた刃を下ろすなりなり、少女は自身の額を山雀の背へと押し付けてきた
「……山雀、鬨の声が聞こえる」
少女のその言葉通り、遠くからだが群衆の声が聞こえ始める
それは段々とその人数を増し、そして一斉に歩く事を始めた
こちらに、来ている
砂利を踏む音が段々と近づき、俄かに少女の表情が強張っていく
その様に、山雀は舌を打ち、意を翻した
「山雀?」
あの脚音には嫌な予感しかしない
恐らく、殺さなければ、こちらが死ぬ事になりかねない音
大人しく狩られてやるつもりは毛頭ない、と山雀は木を降りて行った
「また、ぞろぞろと」
眼下に群れを成し歩く群衆をみ、その滑稽さにまた舌をうつ
そして徐に広げていた羽を閉じると、其処から急降下を始めた
「人間共が雁首揃えて一体何の騒動だ?」
降り立った先はそのヒトの群れの前
突然の山雀の登場に、ざわめく声があがる
間抜けな面だ
一人一人表情を伺ってみれば、皆驚愕した様なそれ
さて、どうしてやろうか?
口の端を僅かに舌で舐めて見せながら見回してやれば
その中の一人と目が合った
山雀の姿を見、恐怖心を顕わにしている
「くる、な……。来るな、鳥ィ!!」
暫く視線を交わしてやると、その内にわめき始めた
そしてその人物は近くいた赤の他人の襟首を掴みあげると
「俺は、まだ死にたくない!殺すならこいつを――!」
山雀の方へと押しやってきた
やはり、ヒトは愚かだ
その様を感情も失せた表情で暫く眺め
そして痺れを切らしたのか、山雀は素早く脚を回す
直後に聞こえてきたのは何かを圧し折った様な音
そして、その感触
頭部は砕け、その中身が辺りに飛散する
その凄惨な様に、一瞬の後ヒトのざわついた声が上がり始める
人殺しだ、化け物だと
「皆、少し黙りなさい」
その一言で群衆を黙らせたのは以前にも皆を率いていたあの人物
一斉に皆が道を開け、その声の主が山雀の方へと歩み寄ってくる
「……鳥は、貴方がたは何故寄生木を必要とするのですか?」
僅かに爪先立ち山雀を見上げてくる相手
答えろと視線で促され、山雀は面倒くさげに溜息を吐いた
「……俺は唯、主の意のままに動く。それだけだ」
それがどんな理由で合ったとしても従うのみだ、との山雀へ
相手はその口元に嘲笑を浮かべて見せ
「……あの鳥に付き従って得られるものなど在りません。すべては無駄です」
言いきって見せた
やはりヒトは何一つとして分かってはいない
山雀は溜息を付き、僅かに空を仰ぎ見る
見上げた先には騒ぎ始めていた鳥たちの群れ
ひどい鳴き声に山雀は僅かに表情をゆがめ、そして身を翻した
「……どこへ?」
背に向けられた声に答えて返す事はせず
僅かに首だけを巡らせ一瞥をくれてやると山雀はその場を後に
手に吐いた血の臭いがひどく鼻に付いていて
不快でしかないそれに、山雀は顔をしかめてしまう
「……山雀、何か、あった?」
山雀の様子がおかしい事に気付いたのか
少女が上目遣いで顔を覗き込んできた
何故、寄生木を必要とするのか
先の言葉を思いだし、山雀その通りに口を開きかける
だがすぐにそれをやめ、少女の頭に手を置いた
「山雀?」
この少女は何に対しても敏い
油断をすればすぐに胸の内を見透かされてしまう
それだけは在ってはいけないと、山雀は誤魔化すかの様に少女の髪を指で梳いていた

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