《MUMEI》

「・・・・ね、あつくん」

「うるせ、声かけんな」

背後から声をかけられる、ちょっと泣きそうなんだよ俺。

少なからず頼られていると思っていた。その片鱗が行動の中に見えなくても、心のどこかでは、と考えていた俺はただの馬鹿だ。
俺がのうのうとしている間に、お前は他のヤツの胸の中で泣いてたのか?
何故、それは俺相手ではなかったんだ?

あぁ、マジでうぜぇ。

ここまで嫉妬深いだなんて。俺は女か。

「・・・・あつくん?」

「声かけんなっつってんだろ」

背後で一気に空気が硬化したのがわかった。

「何なの?ゆってくれなきゃわかんないよ!」

その言葉、そのままお前に返すわ。

「ね、どしたの?何かあったの?風見くんと帰ってきたのが気にさわったの?」

半分責めるような、半分なだめるような、いつ聞いても心地良い声、でも今は。

「ね、あつ、」

ゆらり。
緩慢な動作で俺は彼女に振り向く。
あぁ、お前まで、そんな怯えた顔しないでくれ。

「顔見てたくねぇよ」

声を聞いたら泣きそうだから、顔を見たら泣きそうだから。

お前だって、側で泣けない相手のところにいるくらいなら、いっしょに涙を共有してもいいと思える相手の場所にいたほうがいい。

「・・・・なん、で」

違う、俺が見たいのはそんな顔じゃなくて。

俺は馬鹿だ。


そして、部屋の中に一人とりのこされた10日目。些細な日常の中にぽっかりと口を開けていた暗い暗い穴底、俺はその中に足をつっこんだ。

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