《MUMEI》
3
「……士郎。ちょっといいかしら?」
翌朝、目が覚めると何故か実家に居るはずの母親が部屋に居た
行き成り過ぎるその来訪につい文句を返せば
「……あんた。一人暮らし始めた途端に何女の子連れ込んでんの!?」
三浦の傍ら、未だ寝の中にいる佐藤へと母親は目を移す
その騒動の最中にも佐藤は三浦の服の裾をしっかりと握りしめたまま熟睡
その可愛らしい仕草に母親は深い溜息を吐いた
「……言い訳位は聞いてあげるわ」
どうやら、弁解をする余地位は頂ける様で
三浦は母親の前に一応居住まいをただす
「……で?お袋は何しに来たんだよ?」
取り合えずは其処が聞きたかったらしく
問うてやれば母親はそれまでの険しい表情を僅かにやわらげ
「あら、言わなかった?明日、こっちで同窓会があるって」
「……初耳だ」
「それで、今日此処に泊めてって」
「それも初耳」
「あら〜。わたし、メールしなかった?」
おかしいわ、と首を傾げながら母親は携帯を開く
すぐ後、あ、と短い声が上がった
「……違う人に送っちゃってた」
「……馬ー鹿」
送られた相手はさぞ不思議だっただろう
深々溜息を吐けば、傍らで寝ていた佐藤が僅かに身じろぎ
そしてゆるり目を覚ます
「悪い。起こしたか?」
まだ寝の中に居るのか、ぼんやりとした視線
三浦が柔らかく髪を梳いてやればはにかんだ笑みを浮かべて見せ
だが完全に目を覚ましたわけではない様で
三浦の服の裾を握るとまた寝に入っていた
穏やかな寝の表情に、三浦は僅かに肩を揺らす
「……で?その子は一体誰なのかしら?士郎君」
柔らかなその雰囲気も一瞬、母親がその話題に戻ってきた
問い詰められ、三浦はこれ以上誤魔化すのも面倒だと話す事を始めた
大隊を離し終えると、母親はゆるり佐藤の方へと向いて直る
「……珍しい。アンタがこういう事に首突っ込むなんて」
「そうか?」
「この子の事、気になっちゃってるんだ」
「はぁ?」
「可愛いらしいお嬢さんね。アンタの事、凄く信用してるみたい」
三浦の服の裾をしっかり握る様を見、母親は口元に笑みを浮かべた
それをさも当然だといった様子の三浦に若干の驚きを隠せずにいたが
悪い変化ではない、と肩を揺らす
「じゃ、私観光がてらその辺散歩してくるわ。夕方には帰るから」
言いたいことを言うだけ言って母親はその場を後に
全く以て落ち着きがない
やれやれと溜息を付き、髪を掻き乱したと同時、佐藤がまた目を覚ました
「……士郎、くん」
裾を引き、三浦の名前を呼んでくる佐藤へ
何を返せばはにかむ様な笑みを浮かべて見せ
「……おはよ」
短く朝の挨拶だ
三浦も同じくおはようを返し、あたりを見回し始める
「……誰か、来てた?」
夢現にでもヒトの気配を感じていたのか、訪ねてくる佐藤
三浦は僅かに溜息を着くと、事の説明を始めてやる
「……士郎君の、お母さんが?」
「そ。騒ぐだけ騒いですぐ出てったけどな」
今夜泊まる旨をつい愚痴ってしまえば佐藤は暫く無言の後立ち上がり
帰る、と一言で踵を返した
「……邪魔、しちゃ悪いから」
母子水入らずに自分がいてはいけないとでも思ったのか
そのまま出ていこうとする佐藤を、三浦はその腕を取り引き留める
「……士郎君?」
何故、引き留めてしまったのか
自身が取ってしまった行動に三浦は驚く
驚いたのは佐藤も同様だった様で
僅かに目を見開き三浦の方を見やった
「……悪い。なんでもない」
苦笑を浮かべて見せ、三浦は手を離す
暫くそのまま、無言で対峙していると
「……また、来てもいい?」
佐藤からの控えめな声
窺う様な上目遣いに、三浦は瞬間言葉を返す事を忘れ
だがすぐに片を揺らすと返事代わりに髪を梳いてやった
「……ありがと。、じゃ、またね」
照れたのか、はにかんだ笑みを浮かべると佐藤はその場を後に
しようとドアノブに手をかけた、次の瞬間
「ちょっと待ってぇ!」
出かけて行った筈の母親がどうしたのか慌てて帰ってきた
本当に落ち着きがない、と三浦は深々しい溜息だ
「何?」
あからさまに怪訝な表情して見せれば
母親は手に持っていたビニール袋を徐に三浦へ
中身は何なのか見てみる事をすれば、中には大量のパンとコーヒー牛乳が
「アンタ達、朝ごはんまだでしょ?よかったらコレ食べなさいな。じゃね」

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