《MUMEI》
野蛮な隣人 1
千香は、ハッとして目を覚ました。なぜかブルーのビキニ姿のまま、十字型に磔にされ、大勢の海賊に囲まれている。

「え、何で?」

生きた心地がしない。前後の経緯がわからず、彼女は気が動転した。怖い。怖過ぎる。海賊たちは、眩しいばかりの水着姿に見とれている。この美しい生贄をながめながら、淫らな笑みを浮かべている。

「いい女だ」

「たっぷりかわいがってやろうぜ」

冗談ではない。しかし手足を縛られて無抵抗では、大切な体を好きにされてしまう。ビキニ上下は風前の灯よりも危うい。全裸にされたら、恥ずかしいというよりもレイプの危険が高まる。

「イヤ・・・」

「女。もちろん覚悟はできてるだろうな?」

「できてません。許して、お願いします」

泣き顔で哀願する千香がかわいい。海賊たちは燃えた。

「さあ、野郎ども、宴だあ!」

「オオオオオ!」

数人の野蛮人が千香の水着上下を乱暴に掴む。

「やめて!」

彼女の哀願もむなしく、あっさりビキニを剥ぎ取られ、真っ裸を晒してしまった。

「ヤダ・・・」

赤面して横を向く千香に、海賊の頭は言った。

「いい体してるじゃねえか」

「許して」

「女。好きでもない男に大切な体を支配される気分ってどんなんだ?」

「絶対にイヤです。どうか酷いことはしないで」

「体は諦めろ。心配すんな、命までは取らねえよ」

千香は絶望的な表情をした。観念するしかないのか。命まで取られたらたまらない。

「・・・乱暴はしないで」

「残念ながらそうはいかねえ。その華奢な体で30人を相手にするんだ。もつかな? ぐははははは!」

30人と聞いて千香は蒼白になった。裂傷は避けられない。彼女は震える声で哀願した。

「やめて、お願い、許して」

「よし、俺からだあ!」

愛撫もなしにいきなり巨根を突っ込もうとする。それは酷い。千香は身じろぎしながら泣き叫んだ。

「やめて!」

だが海賊に情けも容赦もない。思いきり突っ込まれた!

「きゃああああああああああ!」

ガバっと毛布を剥いで千香は上体を起こした。

「え?」

夢だ。不思議な悪夢。千香は額の汗をタオルで拭くと、自分の体を見た。

「あ、あたし裸で寝ちゃったんだ」

夫が出張中なので、風呂上りに全裸でベッドに横になり、そのまま寝てしまったらしい。七月の明るい日差しがカーテンから差し込む。

「ふう・・・」

結婚して一年。福井千香は24歳の若い主婦だ。夫は10歳年上の孝太郎。優しいし仕事熱心で、ほとんど怒らないし、文句なしの夫だった。

ただ、仕事は忙しい。出張も頻繁にあるし、新婚生活をゆっくり満喫する時間は、とうとうこの一年もてなかった。子どもはまだいない。夜のレスリングもお預けで、感度のいい千香は、それだけは不満だった。

「だから変な夢見ちゃうのよ」千香は口を尖らせた。

出張が多くては仕方ないと思いながらも、若い肉体は刺激とスリルを欲していた。千香は全裸のままベッドから下りて軽く伸びをすると、カーテンを開け、窓を開けて朝の空気を部屋に入れた。

頑丈そうな二階建ての家に住んでいる。寝室は二階で、家の前は工事中。朝の6時。今は工事が始まる前の時間帯だから、外から裸を見られる心配はない。

それでも全裸で窓を開けるのは緊張する。この緊張感は嫌いではなかった。千香は唇を結ぶと、階段を下り、空のペットボトルが入ったゴミ袋を玄関に置き、独り言を呟いた。

「まさか裸のままゴミを捨てに行くわけにはいかないからね」

千香は下着をつけると、タンクトップを着て短パンを穿き、ゴミ袋を持って外に出た。

「暑い」

きょうも朝から暑い。ゴミ収集所にある籠にペットボトルを入れると、ゴミ袋を持って帰ろうとした。そこへ、屈強な巨漢が現れた。ゴミ袋を持っている。見かけたことはないが近所の人だろう。千香は挨拶した。

「おはようございます」

「あ、おはよう」

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