《MUMEI》
野蛮な隣人 2
大男は、千香を見た。やや染めた髪。ポニーテールがよく似合う。顔は文句なしに美人で、キレイな肌をしている。タンクトップに短パン。裸足にビーチサンダル。夏らしい薄着に男の目がギラギラ光る。セクシーな肩と、見事な美脚。とびきりにいい女ではないか。

無遠慮に人妻の体を見る男に、千香は非常識なものを感じたが、見られることは嫌いではない。千香も短い間に男を観察した。

短めな茶髪で年齢は不詳。年上であることは間違いない。Tシャツにジーパンというラフな格好だが、とにかく大きい。見事にビルドアップされた肉体は、Tシャツがはち切れそうだ。分厚い胸板に太い腕。性格も荒っぽそうで、千香はやや気圧された。

「お姉さん、初めて見るけど、近所の人?」

「あ、あたし、ここに住んでる者です」千香は自分の家を指差した。

「そうか。俺はそこのアパート」

なるほど、アパートの住人。ということは一人暮らしか。このアパートは全室ワンルームのはずだ。千香は笑みを浮かべると、会釈して帰ろうとした。

「あ、俺、真壁」

「え?」

「真壁万勢」

「まかべ、まんせい・・・さん。珍しい名前ですね。どんな字を書くんですか?」

「万力の万に勢いだ」

「へえ」

千香も名乗らなくてはいけないと思い、笑顔で自己紹介した。

「あたしは、福井です」

「福井、何さん?」

「千香です」

「チカさん。千に香り?」

「はい」

「千と万か。気が合うかもしれねえ、ハハハ、ハハハ」

それは関係ないと思います。そう、千香は心の中で呟き、やや笑顔が引きつる。風貌からして野蛮人にも見えるし、苦手なタイプだが、気が短そうで怖いから、明るく会話してしまった。

真壁は身長181センチ、体重110キロと、常人離れした巨漢。一種独特の迫力があり、千香は緊張していた。

「暑いね」

「暑いですね」

真壁は話しながら、ペットボトルを籠に放り投げる。千香は目を見開くと、怖々注意した。

「あ、それは、まずいですよ」

「まずい?」

「ペットボトルはラベルを剥がして潰さないと」

「そうなの?」真壁はとぼけたような顔をして聞く。

前から分別がなっていないと千香は感じていたが、やはりアパートの住人か。でも千香は真壁が怖いので、懇切丁寧に教えた。

「こういう風にラベルを剥がして、キャップとラベルは燃えるゴミに」千香はペットボトルを地面に置くと、サンダルで踏んだ。「こうやって潰して、籠の中に入れるんですよ」

「面倒くせえじゃん、そんなの」

真壁は声を荒げるが、千香は怯まずに言った。

「でも、ルールですから」

「いつ決めたの。俺、そのルールを決めた会議に呼ばれてないぜ」

予想通り、ワイルドを通り越して野蛮人レベルか。千香は思わず笑った。

「面白いですね、真壁さん」

「そうかい?」真壁も嬉しそうに笑った。「千香さん」

「はい」

「次回からでいい?」

「あああ・・・はい」

「悪いね、今度からそうするよ」

素直に言ってくれて、千香はホッとした。真壁は「じゃあ」と軽く手を挙げて、アパートに戻った。千香も家に戻る。しかし、会話中、あれほど無遠慮に脚や胸を見られたことはない。非常識だとは思ったが、少しドキドキした。

「気をつけないと」

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