《MUMEI》
露出願望 1
昼間。家の掃除をしていると、電話がかかってきた。千香は岡田の顔が浮かんだ。携帯電話を見る。「岡田征義」。やはり岡田だ。彼女は暗い表情で電話に出た。

「はい」

『もしもし、千香チャン?』

「はい」

『会いたい。きょうの夜に会おう』

千香は唇を強く結んでしばし無言。

『もしもし』

「きょうのきょうは、厳しいですよ」

『わかった。じゃあどこの交差点がいい? 六本木? それとも渋谷か』

「脅すんですか?」

『おっ、強気に出ちゃう? いいよ、千香がそう出るならこっちも旦那を巻き込むから』

「待って」

それは困る。何をしでかすか想像がつかないのは怖い。

「わかりました。今夜ですね。どこへ行けばいいですか?」

『最初から素直にそう言えばいいのに。これは罰ゲームが必要だな』

「罰ゲームがあるなら会いません」

『冗談だよ。罰ゲームなんかないよ』

結局脅されて会うことになってしまった。千香は意気消沈した。このままではいけない。夫にバレたら離婚もあり得る。それに、岡田は危険な男だ。どんな恥ずかしいことをするかわからない。身の破滅を招く怖さを感じて、千香は恐ろしくなった。

「ちゃんと話してお願いして何とか許してもらおう」



夕方5時。千香は岡田と会った。洒落たレストランで待ち合わせだ。彼女も鮮やかなブルーのワンピースを着て、やる気を見せた。いやいや来たことが見抜かれたら、また罰ゲームとか言い出しかねない。

「お、千香チャン、素敵じゃん」

「こんばんは」千香は笑顔で挨拶した。

岡田は高価なスーツを着ていた。金持ちなのか。よくわからない男だ。マッサージが本業ではないのかもしれない。千香は何となくそう感じた。つまり、マッサージは、美しき獲物を探す手段・・・。

「千香。来てくれてありがとう」

「約束したから」

「約束?」

「また会う約束をしたから、あなたは許してくれたわけだから」

あんな酷い目に遭ったのに、このしおらしい態度。岡田はますます確信した。

「千香は。やっぱりMだろ?」

「違います」

「何で否定するんだ。俺はSだから、Mの女の子が好きだぞ」

「・・・・・・」

ついていけない会話だ。千香はメニューを見た。

「先に注文しましょ」

「逃げたね」

「別に」

「こういう会話は嫌いか?」

「あまり、得意じゃないです」

二人はステーキとワインを注文した。

「千香。君ほど美しい裸体だと、やっぱり人に見せたいという願望はあるだろう?」

「ありません」

「即答するなよ。いいか。水着姿で手足を縛られた時、君は興奮してただろ?」

「してません。変なことされたらどうしようって、恐怖感しかありませんでした」

「でもスリル満点だっただろう?」

岡田はしつこい。千香は断固認めない。そんなきわどい会話をしているうちにステーキとワインが運ばれてきた。二人は乾杯した。千香も岡田が気分を害するのが怖いから、笑みを浮かべた。

「千香。君は本当に魅力的だよ。結婚するのが早過ぎたんじゃないのか?」

「あたしは夫しか愛していませんから」

「嘘だね。本気で旦那を愛していたら、絶対にイカなかった」

千香は反論せずに、黙々とステーキを食べた。実際どうなのだろうかと、岡田の言葉責めに翻弄もされていた。夫だけを本気で愛していたら、ほかの男に何をされても昇天してしまうことはないものなのか、それとも、愛情とは別に、敏感な弱点を責められてしまったら、女はイッしまうものなのか。

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