《MUMEI》 露出願望 2「千香」岡田は熱心に口説く。「自分の裸を人に見られたいという欲望は、決して変なことじゃないぞ」 「変ですよ」 「夫が君の体を褒めてくれないんだろう?」 「そんなことありません」 「その満たされない気持ちはよくわかる。あたしはこんなにキレイで魅力的なのに。言葉が足りない夫に不満が募る。その心の隙を突いてプレイボーイが現れるんだ」 岡田はプレイボーイのつもりなのか。千香は呆れて聞いていた。 「その証拠に、あんなセクシーな水着でプールに来て、一人で寝転がったり、マッサージ師に身を任せたり」 千香はケラケラと笑った。 「身を任すのは仕方ないでしょう、マッサージを受けるんだからあ」 「甘いな。俺の観察力は凄いんだぞ。千香の心の奥を見抜いた。セックスであまり満たされてないだろ?」 「・・・やめましょう、こういう話」 「あれ、図星だったか?」 「全然」 千香はすました顔でワインを飲んだ。 「じゃあ、週に何回レスリングしてる?」 「レスリングなんかしてません」 「比喩だよ」 「選手に失礼な比喩ですよ」 岡田も負けていない。 「失礼? セックスは人生において重要なことだろ。失礼というのは当たらないぞ」 このテーマで岡田と討論する気がない千香は、いい加減に答えた。 「じゃあ、レスリングは毎日してます」 「嘘だね」 「出張の時は仕方ないですけど、夫がいる時は毎晩ですよ」 「そういう嘘をつくならこの場で全裸にしちゃうぞ」 千香はドキッと来た。まさかとは思うが、やりかねない男だ。 「毎日は、まあ、嘘ですけど」 「嘘をついたな。はい、罰ゲーム決定!」 こんな公共の場で変なことができるわけがない。千香はすました顔でいた。 「千香。この店の店員も客も、全部サクラで俺とグルだったら、どうする?」 「え?」 千香は慌てて店内を見回した。千香は以前、たまたまネットで見たコミックを思い出した。痴漢退治をするために囮捜査をした女性警察官。しかし一人の痴漢を現行犯逮捕しようとしたら、乗客全員がグルで、凶悪痴漢集団の悪徳グループだった。その女性警察官はかわいそうに電車の中で嬲られ、全裸にされ、つり革に素っ裸のまま吊るされて置き去りにされ、晒し者にされてしまったのだ。 千香は怯えた顔で岡田の手をつかんだ。 「わかりました。謝りますから罰ゲームはやめて」 「かわいい!」岡田は感激した。「わかった。そのかわいさに免じて罰ゲームは許してあげる」 どうせ、女が慌てたり、怯えたりする姿を見て面白がっているのだ。千香はそう取った。でも実際に自分も晒し者の刑に遭っているので、岡田を逆上させるようなことは言えない。 二人はステーキを食べ終わり、ワインを飲みほした。 「さあ、じゃあ、ホテル行こうか?」 「行きません」 「行くよ」 千香は両手を合わせた。 「お願いします。それだけは許してください」 「かわいい!」 何とそこへ、あまりにも見かけた顔が現れ、千香は蒼白になった。真壁万勢だ。 「へえ、不倫か?」 「違います」千香は即答した。「あたしの友達の婚約者です。今、結婚披露宴の打ち合わせで・・・」 「嘘がヘタだな」 「嘘じゃありません」 岡田はやや引きつった笑顔で聞いた。 「あれ、もしかして、旦那さん?」 「違います。近所の人」 「あ、命の恩人を紹介するのに、単なる近所の人か。そういう態度かあ」 千香は困り果てた。 「あ、命の恩人です。プールで変な連中に絡まれているところを助けてくれたんです」 「へえ」 岡田は親しげな笑みを浮かべたが、真壁はムッとしている。 「まあ、このことは旦那に報告だな」 「待って」 「風林火山は夫への最高の裏切り行為だからな」 「風林火山なんかじゃありません」 真壁が背を向けて去っていく。千香は追いかけた。岡田が呟く。 「風林火山は失礼じゃないのか?」 前へ |次へ |
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