《MUMEI》
SMホテル 9
千香は目を覚ました。もう手足をほどかれていた。全裸のままベッドに横になっている自分を思い、意気消沈した。

「・・・・・・」

落とされた。小田切に女として屈した。こんな気持ちいい目に遭わせてくれる男性は捨て難い。そんな感情が芽生え、千香は呆然とした。身も心も、夫以外の男に支配されてしまった。

「もう、ダメ・・・」

離婚の二文字がよぎる。

小田切は、千香のおなかをやさしく触る。

「千香。気持ち良かったか?」

「意地悪にもほどがあるわ」

甘えた感じの千香を見て、小田切は感激していた。

「あたしがやめてってお願いしているのに、やめてくれないんだもん」

「やめるわけないじゃん」

「生まれて初めてよがり狂わされた。悔しい」

「悔しい?」

「悔しいよ」

小田切は、千香をやさしく抱き締めた。

「明日、オレの別荘に行こう」

別荘と聞いて、千香は現実に戻った。自己嫌悪と罪悪感で胸が痛い。夫の孝太郎は、仕事が多忙というだけで、彼には何の落ち度もないのだ。出張先で浮気でもしてくれれば。そんなことが頭に浮かぶ。

「嫌か?」

「え?」

「別荘」

「ヤじゃないよ」

小田切が笑顔で睨む。怖い。忘れてはいけない。こちらの態度によっては何をするかわからない男なのだ。千香は両腕を小田切の首に回した。

「変なことしないと約束してくれるなら、行くわ」

「プールがあるんだ。泳ぐの好きだろ」

「え? あたし、そんなこと言ったっけ」

水泳が好きという話はしていない気がしたが。すると、小田切は誤魔化すように千香の股を弄る。

「あああ・・・やめて」

「媚薬がまだ効いてるな」

「あん! やめて、やめて、降参」

「かわいい!」

小田切は興奮に任せて千香をベッドに押し倒し、強引に唇を奪う。千香も暗い気持ちを悟られないように、自ら舌を絡ませて応えた。

「千香。愛してる。きょうからオレのものだ。逃げたら泣かすよ」

「泣かす?」千香は笑った。

「殺せないよ。君は最高にイイ女だ」

小田切は念を押した。

「千香。逃げるのはなしだぞ。どうしても困りますと言うなら、惚れた女の言うことだ。聞いてあげるから。だから、黙って消えるのはなしだぞ」

「・・・優しいのね。わかったわ。あなたのことは裏切らないから、怖いことはしないでね」

「しないよ」

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