《MUMEI》 磔 2少しは女の気持ちも考えてほしい。水着姿のまま磔にされている状態で暴走族の爆音を聞いたら、それだけで恐怖だ。しかもドアが開く音がしたのだから、万が一のために彼女をほどくのが優先のはず。 千香は胸のドキドキが止まらない。 「何だ貴様ら! 出てけ!」 「嘘でしょ?」 千香は不安な顔色で小田切の声を聞いた。ドタバタとした音とともに、小田切と柄の悪そうな男たちがプールサイドに来た。 「ヤダ・・・」 暴走族だ。小田切は数人の若い男に押し倒されると、両手首を後ろ手に縛られてしまった。千香は心臓が口から飛び出るかと思うほどの恐怖に、顔面蒼白だ。 「イヤ・・・絶対イヤ」 「おい、あれ見ろよ」 「嘘!」 セクシーな白のビキニ姿の美女が磔にされている。思いがけない光景に、男たちは大騒ぎだ。 「うっひょー!」 「かわゆい!」 「やめて、やめて!」 千香は泣いた。両目から涙を溢れさせ、恐怖に顔が歪む。 「かわいい!」 「お姉さん、何してんの?」 「お願いします。ほどいてください」 水着姿で磔にされている状態で暴走族に囲まれる。悪夢でしかない。しかし言葉が通じる人間なのだ。千香は絶望的な状況でも諦めなかった。 「あの、ほどいていただけませんか?」 「お姉さんかわいい。名前は? 嘘言ったらスッポンポンにしちゃうよ」 「待って」千香は深呼吸すると、素直に答えた。「千香です」 怖過ぎる。膝の震えが止まらない。 前へ |次へ |
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