《MUMEI》 磔 4「不倫はまずいだろう」 「悪い子なんだ千香チャン」 少年たちは、千香のおなかを触ったり、ビキニの紐をつまんだりしながら詰問する。 「千香。不倫は良いこと?」 「悪いことです」声が小さくなる。 「俺の両親も浮気が原因で離婚したんだよねえ」一人の少年が怖い顔で睨む。「残された子どもの苦労は絶えねえよ」 千香は顔を紅潮させて、唇を噛む。言葉が見つからない。 「不倫してるMチャンなら回されても文句言えないよな」 数人がビキニの紐を引っ張る。千香は身じろぎしながら懇願した。 「やめて、水着は取らないで」 「取るよ。千香の裸が見たい」 「スッポンポンにしてあげるね」 「やめて、お願いです、やめてください」 少年たちは危ない笑顔で千香を見る。一人が叫んだ。 「犯せ!」 「やめて!」 千香の哀願もむなしく、水着上下を同時に剥ぎ取ろうとする。ところが、巨漢が乱入し、一人の顔面を張り倒した。 「あああ!」 「人の女に何してんだテメーらあ」 真壁万勢だ。岡田征義もいる。千香は驚きの表情で二人を見た。 「千香。俺様が来たからには、もう冷や汗をかく場面はねえぜ」 「何だテメー?」 「何こらあ?」真壁は笑顔で歩み寄る。「怪我しないうちにさっさと帰ったほうがいいんじゃねえのか。それともここで死ぬか?」 「チキショー」 不良少年たちは、あっさり去っていった。千香はそれに対しても驚いた。激しい乱闘になると思ったのだ。 「千香。大丈夫か?」 「ありがとうございます真壁さん。また助けていただいて。このご恩は一生忘れません」 「テメーの女を守るのは当たり前のことだ」 女になった覚えはないのだが。 「あれれ、真壁だけ?」岡田が不服そうな顔で聞いた。 「まさか。岡田さん、本当にありがとうございます」 「俺はついで?」 「違います。本当に感謝しています。ダメだと思ったから」 「ダメじゃねえさ」真壁が笑う。「千香みたいないい子を天が見捨てるわけねえだろ」 岡田は小田切をほどく。三人は磔にされている千香の目の前に並んだ。 「あの、ほどいてくれますか?」 「それより千香」真壁が言った。「不思議に思わねえか?」 「思いますよ。知り合いだったんですか?」 「三人ともグルだったんだ」 グルとはどういう意味か。千香はついていけない。まさか暴走族までグルか。去り際があっさりし過ぎているし、千香が磔にされている姿を見たら、真壁なら激怒して少年を殴りそうだが、拳ではなくパーでビンタしただけだ。 それに、少年たちは水着を脱がさなかったし、おなかは触ったが、胸と股には一度も触れなかった。 「グルって、どういう意味ですか?」 「思い起こしてみい。辻褄が合うだろう」 千香は思い出してみた。プールでチンピラにナンパされて、真壁に助けられたあと、マッサージを受けた。そこに岡田がいた。岡田に酷い羞恥プレイをされたせいで、小田切にゆすられるはめに。 ほかにもある。密売。非売品。マッサージ機。水泳が好きだと知っていたこと。岡田と食事している時に真壁が店に来た。人を露出願望があるだの、レイプ願望があるだの、支配されたい欲望があるだの、三人とも同じ質問をしたような気もする。 「最初は千香をからかおうと思ったんだが、おめえと親しく接していくうちによう。本気で惚れちまったんだ」 千香はもがいた。 「お願いします。まず先にほどいてください。話は聞きますから」 「ほどかねえよ」真壁が拳を見せた。「みんな千香にゾッコンLOVEだ。そこで決闘で決めることにした」 「ちょっと待って!」千香は怒った。「あたしの気持ちはどうでもいいの?」 しかし、岡田が言う。 「千香。安心しろ。真壁みたいな野蛮人には君を渡さないから」 「誰が野蛮人だテメー。このスケコマシ野郎」 「何だと?」 「まあ、まあ、まあ」小田切が止めた。「オレは下りる。この二人に腕力じゃ勝てない。だから立会人だ」 「ふざけないで。早くほどいて!」 前へ |次へ |
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