《MUMEI》
磔 5
千香の怒りを無視して、小田切は笑顔で言った。

「勝ったほうが千香を好きにできる。緊張するだろう?」

「認めません、そんなこと」

「SMとは便利なもので、千香が拒否したところで、磔にされている身では、結局絶対服従するしかないんだ」

「そんな」千香は泣きそうな顔だ。

真壁万勢と岡田征義が向かい合う。小田切が叫んだ。

「はじめ!」

いきなり岡田が真壁の厚い胸板にハイアングル・ドロップキック!

「があああ!」

真壁はダウン。岡田が行く。しかし寝ながら両脚でキック。岡田が後退すると真壁はすぐに立ち上がり、ラリアット! 岡田が片膝をつくと、強引に持ち上げてボディースラムで背中から地面に叩きつける!

「・・・野蛮」千香は顔をしかめた。

「千香。どっちに勝ってほしい?」小田切が聞く。

「あたしはこんな賭け認めてないから」

「そうだな。言えないよな。岡田を応援して真壁が勝ったら困るからな、ハハハ」

あそこまで愛を囁いておきながら、あっさり下りる小田切の人格を疑う。千香はムッとしていた。

真壁が岡田の金髪を鷲づかみにすると、全体重を浴びせたラリアット! さらにパワーボム! 大技連発で追い込む。

「待ってろよ千香」

真壁はボディースラムで岡田を叩きつけ、テーブルの上に乗り、ダイビングニードロップ・・・よけられた。

「があああ!」

岡田は、膝を抱えて痛がる真壁を無理やり起こし、逆さまにして脳天から落とすツームストンドライバー!

「嘘!」千香は思わず横を向いた。

額を切って流血した真壁。岡田はバックを取る。しかし真壁が顔面にエルボー。怒った岡田も横面にエルボー。互いによけることなく顔面へのエルボー合戦。

千香はムッとしたまま試合を見ている。

今度は真壁が前頭部にパンチ攻撃。ふらつく岡田。真壁は数歩下がると、助走をつけてラリアットを狙うが、岡田が飛んだ。カウンターのハイアングル・ドロップキック!

真壁は吹っ飛んでプールの中に落ちた。バシャーンと凄い水しぶきが上がる。

「テメー、やりやがったな」

岡田は千香に歩み寄り、爽やかな笑顔で迫った。

「千香。俺の愛を受けるならほどいてあげるぞ」

「受けません」即答。

「何だと」

そこを真壁が後頭部ラリアット!

「だあああ!」

岡田が後頭部を両手で押さえて苦悶の表情。真壁がもう一度豪腕ラリアット・・・交わして、岡田がラリアット・・・も交わして、同時にラリアット相打ち!

二人は激しく倒れ込んだ。

「チキ・・・」

「くっ・・・」

両雄立ち上がれない。動けない。半失神状態か。

千香はどっちにも勝ってほしくないので、じっと様子を見ていた。そこへ小田切が来る。

「千香。どうやら引き分けだな」

「引き分けだとどうなるの?」

「オレのことを信用してくれるなら、このまま車でドライブだ。最寄り駅で下ろしてあげよう」

駅は嘘だろうけど、とにかく解放されたい。千香はわざと甘い顔をした。

「もちろん信用します。ほどいて」

「よーし」

小田切はビキニの紐をほどこうとした。

「違う!」

「バカ、冗談だよ」

ようやく手足をほどかれた。別荘を出るまでは油断禁物だ。千香は口もとに笑みを浮かべると、軽く頭を下げた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

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